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10別冊の失語症である。嗅覚、味覚、体性感覚についても、同様に考えるとわかりやすい。 運動機能についても、高次脳機能障害が存在する。一次運動野(ブロードマンの4野)にあるBetzの錐体細胞は、個々の骨格筋の収縮に相当する中枢であるが、この部位は一次野である。そのため、一次運動野の損傷では、損傷部位に対応する四肢や体幹の骨格筋の運動障害、すなわち麻痺を生じる。当然、運動麻痺は高次脳機能障害ではない。 それに対して、一次運動野に情報を送る部位である前頭前野や前部帯状回、運動前野、補足運動野といった部位は、個々の筋収縮に直接的に関与するわけではないが、運動の開始や発動性、運動学習などに寄与する重要な中枢である。これらの部位が損傷された場合には錐体路障害としての麻痺は生じないが、運動機能は障害される。例えば、前頭前野はヒトとしての活動的な生活を形成する多くの重要な役割を担っているが、その中の眼窩前頭皮質(ブロードマンの11・12野)が損傷されるとアパシー(発動性の低下)が生じる3)。手足が動かないわけではないが、朝、起床して整容動作や更衣動作を行おうとしないという状態である。前部帯状回(ブロードマンの24・32・33野)は運動系のスイッチのような働きを行っているため、この部位が広範性に損傷されると無動が生じる。本人は外界からの情報を理解し、四肢を動かしたいと考えているが、どのようにしたら四肢が動くのかがわからなくなっている状態である。運動前野(ブロードマンの6野)や補足運動野(ブロードマンの6野)は運動学習に関与する部位であるため、この部位の損傷では個々の筋収縮は可能であるが、動作が拙劣になったり、新たな動作の習得ができなくなったりする。これらの運動麻痺とはいえない運動機能の障害は、高次脳機能障害に含まれ、ある種のものは個別の失行症として命名されている。●●連合線維、交連線維の損傷に基づく症状 これまで、高次脳機能障害は大脳皮質の損傷に起因すると述べてきたが、皮質と皮質とを連絡する連合線維が損傷された場合にも同様の症状が出現し、当然のことながら高次脳機能障害に含まれている。また、対側の大脳皮質間を連結する交連線維が損傷された場合には左右の大脳の統合が困難となる特殊な症状が生じ、この場合の症状も高次脳機能障害とされている。その代表的なものは脳梁損傷による分離脳(脳梁離断症候群)である。近年、小脳も高次脳機能に関与することが知られるようになっている。すなわち、運動学習や学習の際には、大脳との連携によって、小脳も重要な役割を担っている。運動学習という点では大脳基底核も重要な機能を担当している4)。したがって、これらの部位の損傷に基づく症状も広義には高次脳機能障害といえるであろうが、個々の障害の意義については解明されていない点が少なくない。現状では症例報告のレベルにあるが、ここでは今後の医学的発展によって解釈が変わる可能性があることを付け加える程度に留めたい。全体論と機能局在論 大脳皮質の機能を論じるときに、歴史的には全体論か機能局在論かという議論がなされてきた。すなわち、大脳皮質は均質であって部位別に機能が決まっているわけではなく単一であるという考え方が全体論で、19世紀になって解剖学者F. J. ガルが大脳皮質の各部位には異なった機能を担う中枢が存在するという機能局在論の考え方を提唱した5)。functional MRI(fMRI)によって機能が確認できる現在にあっては、当然のことながら機能局在論が支持されている。そ

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