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高次脳機能障害とは8別冊はじめに リハビリテーション(以下、リハビリ)医療の重要性は、21世紀になってますます広く提唱されるようになった。わが国における高齢化と食生活の欧米化は多種多様な障害を生み出し、その障害に対処すべく、新しいリハビリ医療の手法が開発されている。障害は身体の不具合のみでなく、精神心理・認知機能にも及び、なかでも高次脳機能障害は脳損傷者の比較的多くにみられる病態として注目を浴びている。 しかしながら、ひとことで高次脳機能障害と言っても容易に理解し難い人々も決して少なくはない。とくに、2006年に厚生労働省から「行政的定義による高次脳機能障害」の診断基準が発表されて以来、高次脳機能障害の定義に関して誤解を抱いている人々が増えている1)。行政的に名づけられた高次脳機能障害とは、外傷性脳損傷をはじめとする大脳前部の損傷に基づく認知機能の障害を指しているが、実はこれは高次脳機能障害のほんの一部分に過ぎない。古くから教科書に記載されている失認症、失行症、失語症が高次脳機能障害の本流であり、その発症数も多いことを忘れてはならない。 本項では高次脳機能障害をよりわかりやすく理解するために、その定義と範囲、おもな徴候について簡略に解説する。高次脳機能障害の定義 ヒトが行う活動と感覚のほとんどが大脳皮質からの指令と認知機能によって制御されていることは、言うまでもない。その機構は複雑な神経回路によって成り立っているため、大脳皮質には低い次元の機能は存在しない。低次脳機能障害という用語が存在しないにもかかわらず、高次脳機能障害という言葉を臨床用語として扱うのは不合理であると叱責されるならば、謝る以外に方法はない。これは慣例の問題であって、ある一定の徴候を高次脳機能障害と称しているに他ならない。●●大脳皮質の連合野の損傷に基づく症状 高次脳機能障害を最も簡略に定義するとすれば、「大脳皮質の連合野の損傷に基づく症状」と考えると理解しやすい。低次脳機能障害という用語は存在しないが、高次脳機能障害に相対するものは「一次野の損傷に基づく症状」ということになる。そこで、連合野とはどの部位を指すのかを理解しなければならないが、それは一次野以外の大脳皮質の多くの部位といえるであろう。「高次脳機能障害」という名称について 「高次脳機能障害」という名称は欧米諸国には存在せず、旧ソビエト連邦のA. R. ルリアがロシア語で記載した高次脳機能の教科書を英語で「Higher Cortical Functions in Man」と翻訳したものを日本語として使用するに至ったとされている2)。現在でも「高次脳機能」という用語は欧米諸国の科学者にはほとんど通用せず、そのことが文献から学習する者にとって混乱を招く結果となっている。

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