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第章1高次脳機能障害とは9別冊 大脳皮質の一次野とは、嗅覚、視覚、聴覚、味覚、体性感覚の5つの感覚を感知する感覚野と、錐体路のスタート点である一次運動野がこれに該当する。ここで視覚を例に取って、一次野と連合野との関係を概説する(図1)。 今、眼の前に置かれたリンゴを見つめているとすれば、後頭葉の視覚野(ブロードマンの17野)には赤くて丸い像が投射される。ここで認識されることは「物が見える」という情報処理である。どんな色かという認識は、その情報が視覚連合野(ブロードマンの18・19野)に送られてから行われ、ここではじめて「赤いもの」と判断される。同じく、「丸いもの」という認識も視覚連合野の別の部位で行われる。「赤くて丸い」という情報が過去の記憶と照合されて、初めて「リンゴである」という認識が視覚連合野の他の部位で行われる。 しかし、「リンゴ」という言葉の情報は視覚連合野では作られず、先の情報が優位半球(通常は左側)の前頭葉にあるブローカ中枢(ブロードマンの44・45野)に送られてはじめて処理される。したがって、ブローカ中枢も連合野の一つである。一次野である視覚野が両側性に破壊されると、リンゴがまったく見えないという状態に陥る。これは皮質盲と呼ばれるが、一次野の損傷であるため、皮質盲は高次脳機能障害ではない。ところが、視覚連合野が損傷されるとリンゴは見えてはいるが、「色がわからない」、「形がわからない」、「リンゴであることがわからない」といった障害が出現する。これは連合野の損傷であるため、一つの高次脳機能障害ということになる。一種の視覚失認である。ブローカ中枢の損傷では、リンゴであることはわかるが「リンゴと呼称できない」という症状が出現し、これも高次脳機能障害であり、失語症の一型である。 聴覚についても同様で、たとえば他人が話す「めがね」という言葉を聞いたとき、一次野である聴覚野(ブロードマンの41・42野)の両側性の障害では「聞こえない」という症状が出現する。この症状は高次脳機能障害ではない。耳から聞いた言葉の情報の意味を解析する中枢は聴覚野ではなく、優位半球の側頭葉にあるウェルニッケ中枢(ブロードマンの22野)に送られて、言葉の意味が解析される。そのため、ウェルニッケ中枢の損傷では「めがね」という言葉は、音としては聞こえるが、「言葉の意味がわからない」という高次脳機能障害が出現する。別の型前頭前野<8-11・46・47>運動前野<6>一次運動野<4>体性感覚野<1-3>体性感覚連合野<5・7>視覚連合野<18・19>聴覚野<41・42>視覚野<17>第一次味覚野<43>縁上回<40>角回<39>ウェルニッケ中枢(感覚性言語中枢)<22>ブローカ中枢(運動性言語中枢)<44・45>a.外側面前頭前野<8-11>前部帯状回<24・32・33>補足運動野<6>運動野<4>体性感覚野<1-3>体性感覚連合野<5・7>視覚連合野<18・19>第2次嗅覚野<28>視覚野<17>第1次嗅覚野<25>第2次味覚野<11・12>b.正中断面図1●一次野と連合野赤色部は一次野、緑色部は連合野を示す。数字はブロードマンの脳地図によるarea(野)を示す。

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