本書の企画・編集について株式会社メディカ出版の詫間大悟氏から電話連絡があったのは今年の2月はじめであった.臨床現場の看護師さんから,「神経内科疾患の看護に関してわかりやすく解説した書籍がなく,困っている」との要望があり,ぜひ良い解説書を出版したいとの希望の表明であった. じつは,神経内科は大都市圏や,早くから大学に独立した神経内科学講座が開講されていた地域では良く知られているものの,本文でも解説しているように地域での格差がきわめて大きく,地域の中核となる総合病院ですら神経内科の常勤スタッフがいない病院が少なくないのが現状である. 神経内科(英語ではNeurology)は,欧米では100年以上前から確立された診療科であり,その扱う疾患は脳卒中,意識障害,てんかん発作,脳炎,髄膜炎,ギランバレー症候群などの神経救急疾患から認知症,パーキンソン病,脊髄小脳変性症,筋萎縮性側索硬化症,各種の末梢神経・筋肉疾患にいたるまできわめて幅広い.したがって,たとえばメイヨークリニックでは,Neurologyは独立した診療科としては最大の診療科となっており,一般内科はもとより,老年科,救急部門,脳神経外科,整形外科,心臓血管外科,精神科,耳鼻咽喉科,眼科など多くの診療科から頼りにされる存在となっている.また,ハーバード大学の関連病院であるMGH(マサチューセッツ総合病院)では,Neurologyは31ユニットに134名ものスタッフを抱え,2001年にはドクターGならぬ総合神経内科(General Neurology)のプログラムが8〜10名のスタッフで開設されるに至っている. では,神経内科の常勤医のいない総合病院は,どのようにして神経内科領域の診療に当たってきたのだろうか? 実態は,一般内科医に加え,脳の疾病は脳神経外科や精神・神経科,脊髄・末梢神経・筋肉疾患は脳神経外科,整形外科などの診療科が,本来は神経内科医が担うべき領域を不十分ながらもカバーし,診断・治療手段に窮する難病を少数の神経内科医に紹介受診する状態であったと言えよう. しかしながら,人口構造の高齢化に伴う神経内科領域の疾病の増加,その診断・治療法の急速な進歩や,神経内科専門医の増加とともに,脳卒中,認知症,てんかん,パーキンソン病,神経感染症,多発性硬化症などの神経免疫疾患や各種の神経・筋疾患などの診療を担う神経内科の重要性が広く認識されるようになってきている.また,そのような専門領域の医療の充実には,医師のパートナーである看護師の積極的な協力が不可欠であることは言うまでもない.序 文
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