65脳梗塞3章 脳血管障害脳梗塞で見逃してはいけない症状覚えておきたい!これだけは意識障害の増悪なぜなら意識障害が増悪した場合は、脳のう梗こう塞そく巣そうが拡大した可能性、別の場所に脳梗塞が再発した可能性、脳梗塞巣に出血を合併した可能性、けいれんを併発した可能性などが考えられ、いずれの場合も対応が遅れると重篤な状態となるリスクがあるため、迅速な対応が必要となる。神経症状(運動麻痺、構音障害、失語など)の増悪や新規神経症状の出現なぜなら神経症状が増悪、または新規神経症状が出現した場合は、脳梗塞巣が拡大した可能性や別の場所に脳梗塞が再発した可能性が非常に高い。特に再発の場合は、閉塞血管の部位によっては超急性期治療の適応となる可能性もあるため、極めて迅速な対応が必要である。上下肢の運動麻痺の評価には、上肢バレー徴候(図1)、下肢ミンガッチーニ試験(図2)、徒手筋力検査などを用いる。 脳の血管(ほとんどの場合は動脈)がなんらかの原因で閉塞することにより、脳の細胞に栄養や酸素が行きわたらなくなり、最終的に脳の細胞に不可逆的な障害をきたす。動脈硬化の進行によって血管が閉塞する場合と、別の部位 (多くは心臓)から血栓が流入して血管を閉塞させる場合とに大別される。 顔面を含む片麻痺、顔面を含む半身の感覚障害、構音障害(ろれつ困難)、失語(言いたいことがうまく言えない〔運動性〕、聞いた言葉が理解できない〔感覚性〕)、嚥下障害、めまい、視野障害、注視麻痺、半側空間無視(半分の空間を認識することができない)。※ いずれの症状も急性に発症した場合に脳梗塞を疑う。図1 バレー徴候バレー徴候があると…揺れる。また、下降する。バが筋力検査などをる。麻痺側の肘が屈曲し、腕が回内、下降する。腹臥位で両足を少し開き、下腿を床から45°の位置で保持。目を閉じ、手のひらを上に向け、指はくっつけ肩と同じ高さで伸ばす。10秒保持できれば正常。803章 脳血管障害ある患者さんのストーリー 60歳、女性。右片麻痺で発症し、翌日救急搬送された。来院時、意識レベルJCS 10、右完全片麻痺と失語を認めた。頭部CTで左前頭葉、頭頂葉、側頭葉に脳梗塞、CTアンギオグラフィーでは左中大脳動脈起始部に閉塞所見を認めた。すぐに内科的治療が開始されたが、徐々に意識状態が低下した。3日目の頭部CTで脳梗塞部位に高度の脳腫脹と、それにともなう正中偏位を認めたため、救命目的で開頭外減圧術を行った(図25)。術後、脳腫脹は徐々に軽減したが(図26)、寝たきりで経過し、外減圧のまま、転院となった。頭側背側腹側尾側硬膜を大きく切開したところ、脳が膨隆してきた広範囲に頭蓋骨を外した。硬膜の緊張は高度「?型」に大きく頭皮切開を施行図25 術中所見人工硬膜()を使用し、硬膜を縫合図26 脳梗塞発症当日から転院までの頭部CTの経過発症当日術後1カ月半術後2カ月半発症3日後術翌日左前頭葉の脳梗塞ははっきりしない脳腫脹()は軽減している脳梗塞部位の脳腫脹()は継続しているが、外減圧部に腫脹し、正中構造の偏位()や脳室の変形は軽減している()左前頭葉の脳梗塞部位は高度の脳腫脹がみられ()、正中構造が右側に偏位し()、脳室が変形している()。救命目的で開頭減圧術を施行右左81脳梗塞3章 脳血管障害入 院術前検査手 術術 後退院・転院● 広範囲に脳梗塞を生じ、脳腫脹を抑える内科的治療(エダラボン、グリセオール®など)を行っても、命にかかわるほど重症の脳腫脹をきたした場合、開頭外減圧療法を行う。● 通常、脳梗塞発症直後ではなく、脳腫脹が顕在化する2~4日後に手術が行われることが多い。● 頭部CTもしくは頭部MRI(多くは頭部CTで出血の有無を確認する)、頚部超音波検査、血液検査、心電図検査、胸部X線検査など。● 麻酔科診察:全身麻酔での手術のため、術前に麻酔科診察を行う。● 全身麻酔で、前頭部、側頭部、頭頂部にかけて、大きく皮膚切開する。高くなっている頭蓋内圧を外側に逃がすため、できるだけ大きく開頭、硬膜を切開し、頭蓋内圧の軽減を図る。人工硬膜を用いて硬膜を縫合する。多くの場合は頭蓋骨は元に戻さずに、頭皮を縫合する。● 術直後もしくは術翌日に頭部CTを行い、術後出血の有無や脳腫脹の状態を確認する。術後も適宜頭部CTを行い、脳腫脹の程度を確認する。● なるべく早期からリハビリテーションを開始する。● 約1~2カ月たって、脳の腫脹が治まった後に、取り外した頭蓋骨自体もしくはそれに一致するようにオーダーメイドで作成した人工の頭蓋骨を用いて、頭蓋形成術を行う。● 意識障害が継続し、呼吸状態が悪い場合は気管切開を行う。● 十分量の経口摂取が困難な場合は、経鼻胃管、胃瘻、腸瘻などを作成し、経管栄養を検討する。● 開頭外減圧療法が必要になるほど重症の患者は、意識障害や麻痺などが後遺する可能性が高い。そのため、3~4週間程度入院した後、リハビリテーションを行う目的で、転院することが多い。一般的な患者さんの経過チャート15章 脳神経疾患によくある症状38615章脳神経疾患によくある症状意識には、「意識レベル(覚醒度)」と「意識の内容(認識機能)」の2つの要素がある。そして、意識障害とは、その2つのどちらか、または両方が障害された状態である。JCS:Japan Coma ScaleGCS:Glasgow Coma Scale英略語・単語①呼びかけに対して反応があるかどうかを確認する(覚醒度の確認)②反応がない場合は、刺激を加え、反応があるかどうかを確認する③それでも反応がない場合は、呼吸状態を確認し、必要に応じて気道を確保する意識障害の程度を確認意識障害の有無を確認①呼びかけや刺激に対する反応がある場合は、意識障害の程度を評価する②JCS(Japan Coma Scale 図1)やGCS(Glasgow Coma Scale 図2)など意識状態を数値化した評価スケールを用いる。意識障害出現時の対応図2 Glasgow Coma Scale(百田武司編、“GCS”.ナースのためのベッドサイドで活用できる:意識レベル・神経症状のとりかた・みかた.大阪,メディカ出版,2017, 38-55.より引用)図1 Japan Coma Scale(百田武司編.“JCS”.ナースのためのベッドサイドで活用できる:意識レベル・神経症状のとりかた・みかた.大阪,メディカ出版,2017, 24-37.より引用)刺激しても覚醒しない状態(3桁の点数で表現)300. 痛み刺激にまったく反応しない200. 痛み刺激で少し手足を動かしたり顔をしかめたりする100. 痛み刺激に対し、払いのける ような動作をする刺激すると覚醒する状態(2桁の点数で表現)30. 痛み刺激を加えつつ呼びかけを 繰り返すと、かろうじて開眼する20. 大きな声または体を揺さぶることにより開眼する10. 普通の呼びかけで容易に開眼する刺激しないでも覚醒している状態(1桁の点数で表現)3. 自分の名前、生年月日が言えない2. 見当識障害がある1. 意識清明とはいえない数字が大きくなるほど重症意い識しき障しょう害がいdisturbance of consciousness開眼(eye opening:E)4.自発的に開眼3.呼びかけにより開眼2.痛み刺激により開眼1.なし言葉による最良の応答(best verbal response:V)5.見当識あり4.混乱した会話3.不適当な発語2.理解不明の音声1.なし運動による最良の応答(best motor response:M)6.命令に応じて可5.疼痛部へ4.逃避反応として3.異常な屈曲運動2.伸展反応(除脳姿勢)1.なし今日は何月何日ですか?…あぁ…うぅ…正常ではE、V、Mの合計が15点、深昏睡では3点となる。点数が低いほど重症もしもし、わかりますか?理解を深める!3脳神経疾患で重要な症状のポイントを画像やイラストで解説!イラストと赤字を眺めるだけでも重要ポイントが身につく! の行動を「なぜ行うのか」「行ったらどうなるか」を理解するための知識も解説、後輩指導にも使える➡2発症から退院後までの流れが、ストーリーとチャートでわかる!v
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