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13序 章分岐点で道に迷わないためにくても当たり前じゃないか」「家に戻れば元のとおりに生活が取り戻せるに決まっている」と考えるのは当然のことかもしれません.とはいえ,実際に退院して元の生活に戻ると,多くの問題に突き当たることになります. 一方,家族や職場の人にも,同じことが起きます.本人の見た目は何も変化がないので,「とくに問題ないだろう」「早く自宅や仕事に戻れば,以前のようにできるようになる」などと言う人が多いのです.しかし,数カ月すると,家族や職場の人から「なぜ前にできていたことができないのだろう」「本人は何でもできるというが何もできない」「自分は間違っていないと言い張って困る」などの言葉が聞かれるようになり,さらに「もう一緒にはやっていけないのではないか」と感じるようになってしまう場合も少なくありません. 記憶や注意などの認知機能の低下があると,社会(職業)生活の中で,何らかの摩擦が生じ,以前のようにできないことがあらわになります.そして,外見では分からないがゆえに,さまざまなトラブルも起こってきます.高次脳機能障害者自身は認知機能が低下していることに気が付いていないために,「自分を理解しない社会が悪い」と考えるようになり,逆に職場は「自分自身のことを分かっていない高次脳機能障害者が悪い」と考えるようになります.高次脳機能障害の最大の困り事はまさにこの部分です.ですから,本人の「自己理解」周囲の「他者理解」を促進し,共通理解に進めていくことが高次脳機能障害者の安定した社会生活につながっていくのです. 本書を通じて,高次脳機能障害者・家族,医療・福祉・雇用の現場において,皆で一緒に考え,共通理解しながら解決していただければ幸いです.ぜひ,高次脳機能障害者および取り巻く人たちの充実した社会生活実現のために,本書を活用していただければと思います.(稲葉健太郎)

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