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142.自己理解自己理解に関する基本的理解 自己理解について,少し説明をします.認知機能には階層があり,「意欲・感情→注意→情報処理・コミュニケーション→記憶→論理的思考・遂行機能→自己理解」といった順に,下位から上位へ影響を及ぼしています.つまり,自己理解は記憶や注意などの他のすべての認知機能の影響を受ける最も高度な認知機能であるということになります.そう考えれば,十分に回復していない受傷後すぐの段階で,自己理解することはとても困難であるとお分かりいただけるでしょう. 認知機能の階層を説明するときに,分かりやすく図にして説明することがあります.たとえば,「スポーツスタッキング」という遊びをご存じでしょうか? コップをピラミッド状に重ねていく遊びです.コップを重ねてピラミッドにしていくのですが,途中でコップが倒れたり,足りなかったりすると,結局一番上のコップまで重ねることができなくなります.同様に,「意欲・感情→注意→情報処理→記憶→論理的思考」といった認知機能が働かないなかで,自己理解をするといっても,それはできていることにはならないわけです(図2). 「この間,〇〇のようなことがあったよ」とミスを指摘すると,「そんなことはない,自分は自分のことはよく分かっている」と話す人がいます.しかし,記憶力が低下していれば,そのこと自体を忘れているのですから,忘れたことでトラブルになったときの自分を理解できるとは考えられないでしょう. では,受傷後は,どのようにして自己理解していけばよいのでしょうか.注意や記憶といった認知機能が低下した場合,メモや手順書など,さまざまな代償手段を使って,失われた機能を補完し,新たなピラミッドを再構築していく必要があります.ただ,それは簡単なことではありません.今まで自然にできていたことが急にできなくなったのですから,時間がかかるのです.人の習慣は簡単には変わりません.そのため,今の自分の認知機能に合ったやり方を新しく身につけていかなければなりません.1

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