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3 高次脳機能障害に関するこれまでの動向を振り返ると,2001年(平成13年)から「高次脳機能障害支援モデル事業」が始まり,5年間で診断基準や訓練プログラムなどが作成され,その後は「高次脳機能障害支援普及事業」を展開してきました.そのなかで,全国に『高次脳機能障害支援拠点機関』が整備され,相談体制が構築されてきています.しかし,全国各地の状況を見てみると,高次脳機能障害者を取り巻く状況は地域によってさまざまで,高次脳機能障害支援コーディネーターの数,実際に行っている事業内容,社会資源の状況など,到底全国一律に考えられる状況ではありません. 一方で,これまで各地でさまざまな実践が展開されてきており,高次脳機能障害に関連した書籍もたくさん出版されるようになってきました.注意障害,記憶障害,遂行機能障害,社会的行動障害など,多様な高次脳機能障害に関して,具体的な対処法がたくさん書かれており,そうした情報は容易に手に入れることができるようになりました.しかしながら,今なお,高次脳機能障害に悩まれている本人,家族,専門家が多いのも事実です. 高次脳機能障害へのアプローチは,決して一律の対処法のみで解決できるものではありません.自分自身で課題があることを知り,何らかの対処法を身に付ける必要があると理解する「自己理解」がカギとなります. 私たちも,注意障害,記憶障害,遂行機能障害といった個々の障害に対する対処法を詳細に説明する支援マニュアルについては,すでに『高次脳機能障害「解体新書」』で紹介しています.そこで,本書では,高次脳機能障害者,そして,高次脳機能障害者を取り巻く家族,職場などすべての方々に向け,高次脳機能障害者が社会生活を送るうえでの共通する課題への本質的アプローチ,すなわち自己理解と他者理解に焦点を当てた支援の方法をまとめました.さらに,これまでに実践で活用しているツールについても可能な限り紹介しています. 本書に掲載した内容が,高次脳機能障害者,家族,職場,支援者の皆様のお役に立てれば幸いです.名古屋市総合リハビリテーションセンター 就労支援課長 稲葉健太郎はじめに

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