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序文序文 女性泌尿器科(ウロギネコロジー、女性骨盤底医療)は女性骨盤底のゆるみを背景とした下部尿路症状や骨盤臓器脱を扱う分野です。日本では「ばあさんのつまらない病気」、生命には関係ないと軽視される傾向がありましたが、最近は「中高年女性の重要なQOL疾患」と認知されるようになりました。 私がこの分野に入ったきっかけは、1980年代初頭に名古屋大学で導入された腹圧性尿失禁のStamey(ステイミー)手術を受ける方の受け持ちになったことです。手術で尿失禁を治療するというのが不思議に思え調べると、当時でも海外では、すでに手術を含め尿失禁治療が積極的に行われていました。日本でも悩んでいる方は多いのではないかと女性尿失禁の実態調査を行い、1986年に本邦初の女性尿失禁外来を開きました。その後、1996年に中部尿道スリング手術のTVT手術が発表され、低侵襲性と安定した長期成績から、その変法であるTOT手術と共にゴールドスタンダードとして定着しました。腹圧性尿失禁は軽症から重症まで裾野の広い疾患で、手術で対処するのがよいのはその一部であり、骨盤底筋訓練(トレーニング)などの理学療法が重要です。1980年代末尾に訪れたロンドンのセント・ジョージ病院には、婦人科理学療法の部屋が独立してありました。昨今日本でもウィメンズヘルスリハビリテーションへの関心が高まり、感慨深いものがあります。 過活動膀胱の治療薬については80年代後半から抗コリン薬、2011年からβ3作動薬が次々と認可され、薬物の併用、仙骨神経刺激療法なども行われるようになりました。薬物療法に偏りがちですが、『過活動膀胱診療ガイドライン』『女性下部尿路症状診療ガイドライン』でも行動療法の重要性が指摘されています。女性では蓄尿障害が注目されがちですが、排尿(尿排出)障害もあり、尿道カテーテルの早期抜去を目標とする排尿自立指導料の新設に伴って、神経因性膀胱の評価、間欠導尿の実施、看護師・理学療法士・医師など多職種での介入が促されるようになりました。 骨盤臓器脱は下垂症状に加えて多彩な下部尿路症状を伴い、中高年女性のQOLに大きな影響を及ぼす疾患です。手術療法は腟式子宮摘除術+腟壁形成術が主でしたが、再発率が高いとの批判がありました。2005年から経腟メッシュ手術(TVM)が低侵襲性、子宮温存といった利点もあり普及しましたが、2011年FDA警告によりメッシュ合併症が懸念され、2014年に保険適用となった腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC)の増加がみられます。本邦ではTVMの合併症は低頻度に抑えられており、合併症報告や講習会を通して安全施行を進める指針が日本女性骨盤底医学会などの4学会から発表されています。理学療法やサポート下着、ペッサリーなどによるケアも、骨盤臓器脱の対処において極めて重要です。 今回、谷口珠実先生から発行後11年を経て、泌尿器ケア増刊『尿失禁&女性泌尿器科疾患のケア』を骨盤臓器脱に比重を置いて刷新することをご提案いただきました。女性骨盤底医療において治療とケアは車の両輪であり、看護師、理学療法士の方々にも若手泌尿器科医、産婦人科医の方々にもこのサブスペシャルティに興味を持っていただきたいと願っています。本書が、中高年女性の尿失禁や骨盤臓器脱の悩み解消に活用されますように。名古屋第一赤十字病院 女性泌尿器科加藤久美子治療の立場から

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