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 長寿の高齢女性が増え喜ばしい反面、加齢に伴う尿失禁や骨盤臓器脱が生じて悩んでいる方が増えていると予測されます。症状に伴う不快感に苛まれても、治療を受ける決意には至らず、長い年月、症状に苦しんだ末、これ以上は我慢できないと感じて、ようやく受診し治療に至っている様子を外来では多々目にしてきました。このような背景には、分娩後に必要な骨盤底のケアが十分周知されておらず、分娩後からの骨盤底機能障害が続いてきたこと、さらに骨盤臓器脱という疾患が周知されておらず、受診窓口が少ないことなどが考えられ、その理由として治療やケアを専門とする医療者が少ないことが推測されます。日本において、骨盤臓器脱は、骨盤底の構造から、これまで泌尿器科で膀胱瘤、婦人科で子宮脱、消化器の直腸肛門科で直腸瘤というように、疾患ごとに分かれて治療が行われており、3 科が関与することになるため、専門の医師や看護師が育成されにくい状況にあったと思います。 今世紀になって医療側では骨盤臓器脱という疾患概念が定着しつつあり、骨盤臓器脱の看護が検討されはじめ、看護師国家試験問題の出題基準にも、尿失禁や骨盤臓器脱の看護が含まれるようになりました。しかしながら、尿失禁に関するテキストは増えていますが、骨盤臓器脱に関するテキストはまだ少ないと言わざるを得ません。 私が、尿失禁や骨盤臓器脱の患者に対する骨盤底筋訓練やペッサリーの指導に興味をもち、毎年行われるInternational continence society(国際禁制学会)の学術集会で同時に開催されるworkshopで、尿失禁や骨盤臓器脱の保存療法やpelvic oor muscle exercise のクラスに積極的に参加するようになり、大学院生時代には英国のContinence Advisorや米国のWomen’s Health Centerに行く機会を得られたこと、そして長年、女性泌尿器科外来での臨床実践を積み重ねてこられたことで、看護職として新たな専門領域を築いてきました。今では大学院に日本初の排泄看護学を開講し、研究と教育と臨床実践の融合を目指しています。 これらの経緯から、看護師やメディカルスタッフにも活用できるテキストを作成したいと思うようになりました。本書の前身とも言える、加藤久美子先生監修の泌尿器ケア増刊から10 年以上が経過したこともあり、治療やケアの進歩をリニューアルして、今回、泌尿器Care&Cure Uro - Lo 別冊として発行できる機会をいただけたこと、とても嬉しく思っています。 本書が、尿失禁や骨盤臓器脱にかかわる医療者の皆さまの臨床実践に役立つことを願うとともに、高齢女性が健やかに生活できることを願っています。山梨大学大学院総合研究部医学域看護学系 健康・生活支援看護学講座谷口珠実ケアの立場から

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