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 近年、日本のがん患者数は増加を続け、2人に1人ががんになると言われています。頭頸部がんはがん患者全体の5%程度と言われており、数的に多いわけではありません。しかしこの割合は、日本人の40人に1人が頭頸部がんを発症しているということになり、どこの病院に患者さんがいてもおかしくない数値です。このように、どこの病院にも患者さんが存在するものの、その数が少ないために、専門的な頭頸部がんの知識をもってかかわることができる医療者も少ないというのが現状ではないでしょうか。 私自身、約20年間、頭頸部がん看護にかかわってきました。そのなかで、医療者と頭頸部がん看護の話をすると、いつも返ってくる言葉は「難しい」でした。頭頸部がんの疾患や創傷は、ほかのがんと比べると比較的見えやすい場所にあり、障害が生じる部位も予測ができるため、わかりやすいのではないかと思っていました。しかし、難しいのはその先のことなのかもしれません。受けた障害の克服、コミュニケーションや社会とのかかわりなど、患者さんにとってはその後も困難が続きます。したがって、術前・術後の看護だけでなく、退院後の支援やかかわりなども含まれてくることから、「難しい」と感じるのかもしれません。 頭頸部がんの患者さんは、がんの進行や治療によって、顔貌の変化、失声、嚥下障害、構音障害などのQOLに直結する障害を抱えます。障害によって患者さんはコミュニケーションの場を失い、食事、入浴、排泄、睡眠など生活のさまざまな面に影響を受けます。そのような状況において、診断を受けて治療の意思決定を行い、治療後は障害を受容してリハビリテーションを行い、社会復帰をしていかなければならないため、多くのサポートが必要となります。そのサポートには専門的な知識が必要なものが多く、患者数が少ない分野であるため、参考となる文献の数に限りがあるのが現状です。散見される文献も、頭頸部がんについて記されてはいますが、看護に特化したものはわずかです。また、頭頸部がんは、喫煙や飲酒などの生活習慣が原因の一部であるとも言われており、喫煙や飲酒に依存的な個性をもった患者さんとのかかわりが多くなります。そのため、そのような患者さんの個性をよく理解したうえで、意思決定や障害受容を支援していく必要があります。 本書では、頭頸部がん治療の実践経験が豊富な医師、頭頸部がん看護を得意とするがん看護専門看護師、がん放射線療法看護認定看護師、緩和ケア認定看護師、摂食・嚥下障害看護認定看護師が、頭頸部がん患者の診断・治療・看護をより具体的に解説し、専門的な頭頸部がんの知識のない医療者にもわかるように紹介しています。 本書は、エビデンスを集約したような教科書や参考書ではありません。当施設で実践している内容について、その賛否を議論していただくことにより、今後のエビデンスにつながる「頭頸部がん看護」の始まりとなれば幸いです。 2021年1月   青山 寿昭はじめに

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