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10はじめての救急看護救急医療と看護師の役割救急看護とは 予測性を持った対応 救急患者は,急な事故や病気の発症,または慢性的な病気の急性増悪にある場合に早急な医療を受ける必要のある対象を指し,救急看護とはその対応と看護を行います. 救急看護を実践するフィールドのほとんどは,救急外来(ER)や救命救急センターの初療室,または救急患者を対象とする集中治療室になりますが,昨今では,ドクターヘリやドクターカーなど病院外の救急患者に対応する場合も少なくありません. 救急外来や救命センターでは,病院への到着前に患者の身体情報を入手することができますが,病院外活動では限りなくその情報が少ないため,全身状態の観察から一つのサインも見逃さず症状の悪化に対する予測的な対応が必要になります. 先でも述べたように,救急患者の症状は様々ですが,一つの症状だけで捉えてしまうととても危険です.意識があり,話ができる患者であっても意識レベルの評価を行うこと,バイタルサインが安定していても呼吸数の変化や体温測定を行うことが鉄則です.何故ならとあえて説明を加えるほどではないかもしれませんが,胸部に異常のある患者にSpO2の低下や呼吸困難が認められなくとも,初期症状で呼吸回数の増多や異常呼吸音が聴取できることは珍しくないからです.また,大抵の患者が「熱はありません」と答えますが,身体に炎症がある場合には発熱をしていることが多くあります. 救急患者には,予測性を持った対応が必要ですが,そのためには予測ができるデータと情報をまとめておくことが何よりも肝要であることを知っておいてください. 外傷で搬送された患者を受け持って観察していることを想像してください.あるとき患者のSpO2が95%へと低下していました.たいていの看護師であれば,患者の呼吸困難感や呼吸音を聴取して,酸素投与や酸素量を増量するような対応を取ります.もちろんこの判断と対応は間違いではありません.しかし呼吸困難の原因が,多発肋骨骨折に伴う胸郭の動揺であったりするならば,胸郭の固定や疼痛管理を優先する必要があったのかもしれません.また,このような病態には,呼吸状態のサポートも必要ですが,より優先されるのは多発肋骨骨折への対応です. 呼吸状態のサポートのみに執着していると,医師に対しても患者の呼吸状態が増悪したとの報告が優先されるために,その初期対応では気管挿管や人工呼吸管理が実施されるなどの過剰な治療が進められていることも少なくありません.もちろん医師による判断がより適切であれば,そこまでの治療には至らないかもしれませんが,看護師からの情報とその報告は,それだけ重要であることを理解しておく必要があります.一つの症状で判断しない救急患者の観察は全身を把握すること

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