302180250
12/16

2がん・生殖医療とは?1 近年、がんサバイバーの増加に伴い、がんサバイバーのQuality of Life(QOL)の向上を目指す動きが高まっている。特にそのターニングポイントとなったのは、2006年にTeresa K. Woodruff博士が腫瘍学と生殖医学とを組み合わせた「がん・生殖医療(Onco-fertility)」という概念を提唱し、2007年に米国国立衛生研究所(NIH)からの資金を元にOncofertility Consortiumを設立したときである1)。それから、10余年の時を経て多くの国々、地域で生殖細胞の保護・保存への取り組みがなされている。ここでは近年、急速に普及しつつある「がん・生殖医療」に関して、ヘルスケアプロバイダーの方々にはぜひとも知っていただきたいイニシャルイントロダクションを述べる。詳しい内容は各項を参考にしていただきたい。 実は、妊孕性温存に関する取り組みは実臨床の中で古くから一般的に行われてきた。生殖領域で行われてきた胚(受精卵)凍結保存とは別に、婦人科領域において一般的に行われている子宮頸部上皮内腫瘍(高度異形成や上皮内がん)に対する円錐切除や、初期子宮頸がん(浸潤がん)に対する広汎子宮頸部摘出術による子宮の温存、また子宮内膜増殖症や初期子宮体がんに対する高用量ホルモン療法、卵巣腫瘍(胚細胞腫)に対する化学療法、一部の初期卵巣がんや卵巣腫瘍(境界悪性)に対する縮小手術などである。また泌尿器科領域においては、思春期以降に流行性耳下腺炎に罹患すると精巣炎を引き起こし、造精機能障害に至る可能性があるため、射精精子の凍結保存が行われていた。 しかし、2004年のDonnezらによる卵巣組織凍結保存・移植による初めての生児獲得が、これまでの妊孕性温存の概念を大きく変え、卵巣組織凍結保存・移植を臨床応用する新しい妊孕性温存の時代の幕開けとなった。そして新しい医療技術の導入に対して、各学会からのガイドラインや新団体の設立が相次いだ。まず、2006年には米国臨床腫瘍学会(ASCO)が米国生殖医学会(ASRM)と共同でがん患者における妊孕性温存に関する指針を出した2)。同時期である2006年にドイツではFertiPROTEKTにより、2007年には前述のアメリカのOncofertility Consortiumにより、国民への基礎的な知識の啓発および、治療提供を行う医療ネットワークシステムが構築された。ASCOと欧州臨床腫瘍医学会(ESMO)はその後、2009年と2013年にがん患者の妊孕性温存に関連するガイドラインをアップデートした3、4)。同年ASRMが、化学療法を受ける患者の妊孕性温存に関して新たな見解を出した5)。この頃、わが国でも2012年11月に日本がん・生殖医療研究会が発足した。そして2014年には日本産科婦人科学会から「医学的適応による未受精卵子、胚「がん・生殖医療」黎明期

元のページ  ../index.html#12

このブックを見る