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がん・生殖医療で知っておきたい基礎知識第章1がん・生殖医療とは?13(受精卵)および卵巣組織の凍結・保存に関する見解」が示され(2016年改定)、2017年には日本癌治療学会よりわが国初の妊孕性温存に関する診療ガイドラインが刊行され、がん・生殖医療における治療の標準化が進められた。このようにがん・生殖医療は、最近数年来のトピックスとして日本のみならず世界的に同期して出現した潮流であり、その背景にがん患者の予後が改善したことと、生殖医療、特に配偶子・胚・性腺組織の凍結保存技術の大きな進歩があり、黎明期の終わりにおいて、今後さらにがん治療ならびに生殖医療技術の安定化が期待される。 最近、妊孕性温存療法のパイオニア的存在であるDonnezらのチームから、卵巣組織凍結保存・移植後の出産例が130人以上になったとの報告があった6)。つまり、ヨーロッパではすでに多くのがんサバイバーに福音がもたらされ、まさに黎明期が終わろうとしている。しかしそこに至るまでには、がんと診断を受けて間もないがん患者は、治療方針選択など、短期間で意思決定しなければならない状況に追い込まれ、特に治療後の挙児についてまで考えが及ばない状況にさえ置かれていただろう。さらに、そのような精神状態でがん治療に伴う妊孕性喪失の可能性について説明されると、がん治療への意思決定さえ揺らぐときもあったと思われる。つまり、がん患者は診断されてから治療までの短い期間に、同時進行で多くの自己決定を強いられている。がん治療を最優先しつつ最適な妊孕性温存の選択肢についての決定を支援するためには、がん治療医のみならず生殖医療医、そして看護師、心理職、薬剤師、ソーシャルワーカーなどからなるヘルスケアプロバイダーによるがん・生殖医療チームの存在が不可欠である。欧米でがん・生殖医療が実臨床化されているのは、患者を中心とした医師とヘルスケアプロバイダーによる診療体制が構築されているからにほかならない。さらに、Oncofertility Consortiumの本部がある米国シカゴのNorthwestern大学では、妊孕性温存を希望する担がん患者に対して最初の妊孕性温存療法の情報提供を行うとともに、その後の他領域との調整役や妊孕性温存療法中の日常ケアのサポートを担うPatient Navigatorが活躍している。Patient Navigatorは特別な医療資格を持つ者ではないが、患者の負担を軽減させるばかりでなく、医師やヘルスケアプロバイダーの負担を軽減させることも担う。わが国でも、担がん患者が妊孕性温存療法のみに集中するのではなく、子どものいない人生の選択を含めて、子どもを持つことの趣意を見つめ直すことを支援するがん・生殖医療体制づくりが必要である。 本書は妊孕性温存を希望するがん患者、挙児希望を持つがんサバイバーの“診断”から“決定”、“その後”の時間的・空間的なサポートをどのように行っていくかを学ぶことができる書であり、ぜひ各項で学んでいただきたい(図1-1)。 2004年にDonnezらが世界初の卵巣組織凍結保存・移植による生児獲得を報告してから、がん・生殖医療技術は大きく革新し、がん・生殖医療に必要なものがん・生殖医療のハイプ・サイクル(図1-2)

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