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序 がん・生殖医療は、小児、思春期・若年成人(adolescent and young adult;AYA)世代がん患者における、治療後の妊孕性温存のための選択肢を検討する医療と定義されます。がん治療においては、アルキル化薬を含む化学療法レジメンや放射線照射による性腺毒性によって、治療後に妊孕性(生殖機能)が喪失する場合があります。医療の進歩とともに生存率が改善された現状においては、がんサバイバーシップ向上のため、可能であればがん治療開始前に妊孕性温存に関する正確な情報を、的確なタイミングで、がん患者とその家族に提供する必要性があります。しかしながら、がん・生殖医療と一般不妊治療との大きな違いは、対象ががん患者であることです。そのためまずは何よりもがん治療を優先とする中で、いかに患者やその家族の自己決定を促すことができるか(子どもを持たない選択に関しても)が重要となります。 ベルギーのDonnez博士らが2004年、若年ホジキンリンパ腫患者における卵巣組織凍結保存・移植による生児獲得を報告したことで、あらためてがん患者に対する妊孕性温存の診療(がん・生殖医療)が世界中で注目され、2006年以降、本領域に対する取り 組みが進んできました。2006年に米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology ;ASCO)が米国生殖医学会(American Society for Reproductive Medicine;ASRM)と共同で作成したASCOガイドラインは、2018年に3回目の改訂が行われ、妊孕性温存のための意思決定におけるヘルスケアプロバイダーと患者とのコミュニケーションの重要性がより強調されています。 一方、日本癌治療学会が2017年7月に刊行した「小児、思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン 2017年版」はわが国初の本領域に関するガイドラインです。今後の課題として、①がん・生殖医療におけるインフォームドアセント(小児、思春期)ならびにインフォームドコンセントの指針など、治療選択のための体制整備、②妊孕性温存を希望しなかった患者や妊孕性温存療法の適応外となった患者に対する配慮、2012年頃以前にがん治療を受療したがんサバイバーのQOL維持と向上を目指した医療介入、③がん・生殖医療のさらなる啓発と情報発信の促進(がんサバイバーによるピアサポートを含む)、④妊孕性温存療法に対する公的助成金補助制度の検討、⑤がん・生殖医療

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