302180250
8/16

本書の使い方がん治療が生殖機能に及ぼす影響第章24治療別に学ぼう! 分子標的治療薬6061 がん細胞は放っておくと一般的にどんどん増殖し続ける性質があり、医学や遺伝子工学の進歩によって、さまざまな分子(タンパク質や遺伝子)ががんの増殖に関わっていることがわかってきました。分ぶん子し標ひょう的てき治ち療りょう薬やくは、その特定の分子(タンパク質や遺伝子)を狙い撃ちして、がん細胞の増殖を抑えたり破壊するお薬です。一般的な抗がん剤は、がん細胞を含めた正常細胞まで攻撃するのに対して、分子標的治療薬はがん細胞増殖の原因を元から断つ薬です。1990年代からがん治療に導入された比較的新しい治療法です。 がん細胞の増殖に関わる特定の分子(タンパク質や遺伝子など)をもったがんが対象になります。現在、分子標的治療薬が実際に使用されているのは、肺がん、乳がん、胃がん(GジストIST)、腎細胞がん、肝細胞がん、膵臓がん、大腸がん、血液がん(白血病やリンパ腫)、婦人科がん(卵らん巣そうがんや子宮頸がん)などの患者さんなどです。 現在、分子標的治療薬が卵らん子しや精せい子しの数を減少させる、または質を悪くするのか、という疑問への答えはありません。しかし、現在さまざまな動物実験が行われています。しかし、ヒトの卵子や精子への影響に関する報告は少なく、はっきりしたことが言えない状況です。よって、妊娠できる能力を残す治療(妊にん孕よう性せい温おん存ぞん療りょう法ほうと言います)を行う必要があるかどうかは、主治医であるがん治療医と生殖医療医と十分に相談することをお勧めします。また、分子標的治療薬を内服している間に妊娠した患者さんで流産したり、お腹の赤ちゃんに異常が起こるという報告もあり、妊娠中の内服に関する安全性についても不明な点が多いため、内服中は避妊することを勧めています。 治療終了後の妊娠・出産に関しては、その時点での年齢や卵巣機能(卵巣の中に残っている原げん始し卵らん胞ぽうの数)、精液所見(精子の数や運動率などの状況)によって変わります。もし、治療が終わった時点で卵巣機能、精液所見が著しく低下してしまった場合、同年代の人と比較して妊娠しづらくなっていたり、早期に閉へい経けいしたり無む精せい子し症しょうなどになる可能性もあります。その時の年齢や卵巣、もしくは精子の機能低下の度合いにより不妊治療を開始する時期や方法が変わってきますので、かかりつけの産婦人科医を見つけて相談することをお勧めします。しかし、そのような急激な機能低下が見られない場合は、同年代の人と同じように妊娠・出産することが可能だと考えられます。どのような治療ですか?対象となるのは?将来どうやって妊娠・出産するのですか?妊娠・出産率はどのくらいですか?治療別に学ぼう!分子標的治療薬4抗がん剤と分子標的治療薬の違い分子標的治療薬内服後の妊娠(イメージ)⇒正常の細胞もがん細胞と一緒に攻撃する。正常な細胞のダメージによって起こる副作用が強くなる(嘔気、脱毛、血球減少など)。⇒がん細胞の増殖を引き起こす細胞内の特定の分子を狙い撃ちするので、正常細胞のダメージは少ない(嘔気、脱毛などの副作用が少ない)。正常細胞がん細胞例えば…Aさん(32歳)慢性骨髄性白血病卵巣機能は年齢(32歳)相当分子標的治療薬イマチニブ内服中は避妊5年後Aさん(37歳)分子標的治療薬自体の影響がほとんどない場合 ➡卵巣機能は年齢(37歳)相当?分子標的治療薬による卵巣へのダメージがある場合(中等度リスク以上) ➡卵巣年齢は年齢(37歳)相当より低下している可能性がある。問題点・ 分子標的治療薬自体が卵子や精子に影響を及ぼすかは不明・妊娠が許可された時点の加齢 ➡卵子数の減少や卵子の老化従来の抗がん剤分子標的治療薬060-063_healthcare_ARK_F1.indd 60-612019/03/14 13:58がん治療が生殖機能に及ぼす影響第章24治療別に学ぼう! 分子標的治療薬6263 分子標的治療薬は、1990年代の後半からがん治療に導入された抗がん剤である。多くが内服薬で治療継続が容易であるため、患者のQOL向上につながり、治療成績の向上をもたらすことから、近年、注目されてきた。 従来からある、「殺細胞薬」である一般的な抗がん剤は、がん細胞と同時に正常な細胞にまで影響を与えることがあるために、吐き気や脱毛、骨髄抑制などさまざまな副反応が生じる。一方、「細胞静止薬」である分子標的治療薬はがん細胞の増殖などに関わる特定の分子(タンパク質、遺伝子)を標的として、がんの増殖などを抑制する。よって、分子標的治療薬は正常な細胞への影響が少ないことから副反応軽減が期待されていた。しかし一部では、薬剤性肺炎、皮膚障害などの一般の抗がん剤とは異なる重大な副反応を来す場合もあり、その効果と副作用のリスクを十分理解して使用する必要がある1)。 一般的な抗がん剤や分子標的治療薬が妊孕性や性腺機能に及ぼす影響については、米国臨床腫瘍学会(ASCO)の妊孕性温存に関するガイドラインに記載がある。しかしほとんどの分子標的治療薬の性腺毒性(卵巣や精巣への悪影響)の有無は「不明」である2)。血管新生阻害薬であるベバシズマブは、ASCOの2013年のガイドラインでは中間リスク群に分類されているが、本薬剤の臨床試験に参加した対象患者の大半が40歳以上と高年齢の女性であった点や、8割以上の患者は後に卵巣機能回復を認めていることより、日本癌治療学会編集の「小児、思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン 2017年版」ではこの解釈に注意喚起している3)。 分子標的治療薬が及ぼす影響は日々アップデートされているので、慎重に情報を収集する必要がある。また治療開始前に妊孕性温存のための未受精卵子や胚(受精卵)、卵巣組織、精子の凍結保存を行うかは、使用薬剤、患者の年齢や配偶者の有無、治療の期間、卵巣予備能を総合的に評価して検討する。 分子標的治療薬内服中の妊娠は一概に論ずることはできず、個別に対応すべきである。胎児への影響を否定する文献がある一方、一部の薬剤では内服中の妊娠で胎児形態異常が発症したという報告がある。よって、安全性の程度が分からない以上、基本的に避妊することを勧めざるを得ない現状がある。同じ理由で、分子標的治療薬内服中の妊孕性温存のための未受精卵子や胚(受精卵)の凍結保存、精子凍結保存に関しても、慎重な対応が必要である。現在わかっている影響の多くは動物実験によるもので、ヒトに対する十分な知見が存在せず、長期データがそろうまでは、この限られた情報の中で個別に対応する(表4-1)。分子標的治療薬内服中に予期せぬ妊娠をした場合は、がん治療医へ相談し、内服継続や今後の妊娠継続について、産婦人科医も含めた話し合いと連携が必要である。 治療が終了し、がん治療医から妊娠を許可された場合、内服終了後から3~6カ月程度のwash out期間が必要だと考えられる。これは卵子や精子が分子標的治療薬の影響を分子標的治療薬の作用と副作用妊孕性へ及ぼす影響分子標的治療薬内服中の妊娠受けている可能性を考え、影響のない卵子や精子を使用するためである。また、抗ミュラー管ホルモン(anti-Müllerian hormone;AMH)を用いた卵巣機能評価(あくまでも参考値となるが)や精液検査、その他一般の不妊検査と同様のホルモン検査、子宮卵管造影などを行い、どのようなスケジュールで妊娠を目指すかを考えていくことを勧める。 治療終了後に著しく卵巣機能が低下している場合や、その他の卵管因子(卵管閉塞や卵管水腫)、男性因子(乏精子症や無精子症)がある場合には、なるべく早く妊娠にたどり着けるように計画を立てる。 治療終了後に卵巣機能が年齢相当でその他の不妊因子もない場合は、自然な妊娠を目指すことも可能である。精子凍結保存を施行した患者では、凍結精子を使用する場合、基本的に顕微授精を行う。しかしここで重要なことは、妊娠を目指していても元のがんの存在を忘れてはならず、定期的な検査・受診が必要であることである。妊娠を目指している間に、もしがんの再発や転移などが認められた場合には、直ちにがん治療を再開する。 1) 山本信之監修.もっと知ってほしいがんの分子標的薬のこと 2014年版.NPO法人キャンサーネットジャパン.http://www.cancernet.jp/upload/w_bunshi140731no.pdf[2019.2.5閲覧] 2) Loren AW, et al; American Society of Clinical Oncology. Fertility preservation for patients with cancer: American Society of Clinical Oncology clinical practice guideline update. J Clin Oncol. 31(19), 2013, 2500-10. 3) 日本癌治療学会編.小児,思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン 2017年版.東京,金原出版,14.(白石絵莉子、高江正道、鈴木 直)引用・参考文献対象疾患作用一般名(商品名)卵巣機能、妊娠に関する報告乳がん(HER2陽性)、胃がんヒト化モノクローナル抗体薬(がん細胞に対する特異的な抗体)トラスズマブ(ハーセプチンⓇ)• 動物実験(サル)では薬剤の胎盤通過が報告されているが、胎児への影響は認めていない。• トラスズマブを内服していた妊婦に羊水過少を認めた報告がある。卵巣がん、子宮頸がん、大腸がん、非小細胞肺がんなどヒト化モノクローナル抗体(同上)ベバシズマブ(アバスチンⓇ)•本文参照非ホジキンリンパ腫キメラ抗体薬(ヒトの抗体とマウスの抗体を混合した、がん細胞に対する特異的な抗体)リツキシマブ(リツキサンⓇ)•妊孕性や性腺機能に関する報告はない。慢性骨髄性白血病、急性リンパ球性白血病、消化器間質腫瘍チロシンキナーゼ阻害薬(がん細胞増殖に関する細胞内シグナルの伝達抑制)イマチニブ(グリベックⓇ)• イマチニブ内服中の採卵卵子数の減少の報告があり、内服中の一時的なゴナドトロピンの低反応の可能性を示唆す。•妊娠中の催奇形性の報告などがある。ダザチニブ(スプリセルⓇ)• ラットへの投与実験で、性腺への影響は認められていない。分子標的治療薬の卵巣機能・妊娠に対する影響表4-1060-063_healthcare_ARK_F1.indd 62-632019/03/14 13:58事例で学ぶがん・生殖医療第章4思春期(AYA)血液がん×未受精卵子凍結保存2176177思春期(AYA)血液がん×未受精卵子凍結保存事例の経過 18歳、未婚、性交経験あり。17歳時に卵巣出血をきっかけに他院で骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes;MDS)と診断された。しばらく無治療で経過していたが、翌年に同症状があり、緊急入院した。 前医では急性骨髄性白血病への移行のリスクが高いと診断され、早期の造血幹細胞移植を計画していたが、同胞や骨髄バンクに適合ドナーがおらず、なるべく早期に臍帯血移植を行う方針となった。 前医から臍帯血移植前の前処置による妊孕性障害の可能性について説明が行われた。そして未受精卵子凍結保存による妊孕性温存が可能だが、原疾患治療の観点から以下の2つの選択肢が提示された。①施行しなければ白血病への進行前に移植が可能であり、卵巣遮蔽を行えば卵巣機能回復が見込める、②施行すると移植が遅れ、白血病へ進行するリスクが上昇するとともに、輸血回数が増えることで抗HLA抗体が出現して臍帯血移植の成功率が下がる可能性がある。1 本人および家族は妊孕性温存を希望したが、近隣に妊孕性温存実施施設がないため、当院を受診した。2 受診時の血中抗ミュラー管ホルモン(anti-Müllerian hormone;AMH)値は0.59ng/mLと同年代と比較して低値であり、血小板数も1万/μL未満と低値であったが、血小板輸血を行いながら未受精卵子凍結保存を目指す方針となった。3 初診時から卵巣出血予防と月経調節のためにエストロゲン・プロゲスチン配合薬であるヤーズⓇの内服を開始した。第2回受診時(初診13日後)から遺伝子組換えヒト卵胞刺激ホルモン(FSH)製剤ゴナールエフⓇ300単位/日による排卵誘発を開始し、以後、ヒト下垂体性性腺刺激ホルモン(HMG)製剤フェリングⓇ225単位/日の注射を施行しながら4~5日ごとに卵胞径を計測した。3 自宅が遠方のため、当科受診日以外の注射は近医で施行した。第6回受診時(初診27日後)に最大卵胞径が15.0mmであることを確認し、フェリングⓇ300単位/日、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アンタゴニスト製剤ガニレストⓇ0.25mg/日の注射を2日間行った。第7回受診時(初診29日後)に最大卵胞径が18.2mmであることを確認し、同日26時と27時(翌日2時と3時)にブセレリン(ブセレキュアⓇ)を両鼻に1回ずつ点鼻した。34 初診31日後の早朝に入院し、採卵直前に血小板40単位を輸血して血小板数が5万/μL以上であることを確認してから成熟卵子3個を採卵し、凍結保存した。採卵3時間後も血小板数が5万/μL以上であること、経腟超音波検査でダグラス窩に血液貯留を認めないことを確認し、同日帰宅した。4 採卵3日後から消退出血を軽減するためにヤーズⓇの内服を開始し、同時にナファレリン(ナサニールⓇ)の点鼻を開始して臍帯血移植時の月経発来を予防した。 その後、前医で臍帯血移植を施行し、経過良好であった。当科にも半年~1年ごとに通院しており、早発卵巣不全を認めるようであればホルモン補充療法を施行予定である。217歳卵巣出血をきっかけに、骨髄異形成症候群と診断低リスク群とされ、経過観察18歳卵巣出血が再発し、入院高リスク群とされ、造血幹細胞移植を提示0日12週間妊孕性温存を希望し、当院を初診がん・生殖医療相談血小板数<1万 /µL13日後排卵誘発を開始エストロゲン・プロゲスチン配合薬AMH 0.59 ng/mL27日後29日後GnRHアゴニスト 点鼻31日後採卵日採卵(成熟卵子3個凍結保存)血小板 40単位輸血血小板数 9.2万 /µL34日後recFSH製剤 300 IU/日HMG製剤 225 IU/日HMG製剤 300 IU/日GnRHアンタゴニスト 0.25 mg/日エストロゲン・プロゲスチン配合薬GnRHアゴニスト176-181_healthcare_ABE_03.indd 176-1772019/03/14 13:59事例で学ぶがん・生殖医療第章4思春期(AYA)血液がん×未受精卵子凍結保存2178179本事例ではここが大事!意思決定までの経過 前医で本人と母親には前述したような二通りの選択肢が示された。本人も未成年ではあるが18歳であり、母親と共に十分に理解した上で当院を受診することを決めた。 文部科学省および厚生労働省「人を対象とした医学系研究に関する倫理指針」には、未成年者のインフォームドコンセント(IC)とアセントに関する記載があり、「中学校等の課程を修了している、または、16歳以上の未成年者」に対しては、研究の実施に関して十分な判断能力を有すると判断され、ICを得る必要があるとしている。さらに「中学校等の課程を未修了であり、かつ、16歳未満の未成年者」には、アセントを得ることを努力義務としている。以上より、日本癌治療学会「小児、思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン 2017年版」では、小児・思春期患者における妊孕性温存療法の実施に際しては、①対象が「中学校等の課程を修了している、または、16歳以上の患者」で十分な判断能力を有すると判断される場合、保護者による代諾だけでなく、患者自身からもICを得ることが望ましい、 ②「中学校等の課程を未修了であり、かつ、16歳未満の患者」の場合、保護者からの代諾だけでなく、本人にも年齢相応の説明を行い、アセントを得ることが望ましい、と記載されている1)。妊孕性温存実施施設への紹介 本事例では、当院で妊孕性温存を目的とした未受精卵子凍結保存を施行した。前医では近隣に妊孕性温存療法実施施設がなく、造血幹細胞移植の必要性や副作用としての不妊の可能性について説明を受けてから当院を初診するまでに約12週間が経過した。また、当院まで3時間かけて通院していた。 2018年11月現在、わが国のがん診療連携拠点病院等は全部で434施設あり、小児がん拠点病院は15施設である。一方、生殖補助医療実施施設は605施設であり、うち94施設が妊孕性温存療法実施施設として日本産科婦人科学会によって登録されている(http://www.jsog.or.jp/facility_program/search_facility.phpで検索が可能である)。しかしながら、がん診療連携拠点病院の中で妊孕性温存が実施可能な施設は48施設のみであり、さらに小児がん拠点病院の中では5施設しかない(図2-1)。 こうした状況で若年がん患者に対するがん・生殖医療を実施するためには、がん診療施設と妊孕性温存療法実施施設との医療連携(がん・生殖医療ネットワーク)が非常に大切であるが、わが国でがん・生殖医療ネットワークが設立されているのは22道府県に過ぎない2)。さらに、2018年11月現在、11県では妊孕性温存療法実施施設が未登録であり、がん・生殖医療未整備地域に居住する若年がん患者への対応は喫緊の課題である。これに対して、2018年7月に改正された「がん診療連携拠点病院等の整備に関する指針」では、若年がん患者に対するがん・生殖医療連携体制を整備することが求められている。12妊孕性温存の適否、実施時期、至適な排卵誘発法の検討 事例のMDSはあらゆる年齢層に認められるが、主に中・高齢者に多い疾患とされている。本事例のような若年患者は比較的稀だが、妊孕性温存の適否に関しては、急性白血病など他の造血器悪性腫瘍患者に準じた検討が可能である。MDSには国際予後予測スコアリングシステム(International prognostic scoring system;IPSS)があり、合計スコアによって、リスクを「low」「intermediate(int)-1」「intermediate(int)-2」「high」の4群に分類する。スコアがどのリスクに当てはまるかによって、予後や急性骨髄性白血病に移行する確率などが予測される。「low」および「Iint-1」に該当する症例を「低リスク群」に、「int-2」と「high」に該当する症例を「高リスク群」とし、当てはまるリスク群、年齢や体の状態などを総合的に検討して治療方針を決定する。低リスク群に対して施行される免疫療法では妊孕性に対する影響は軽微だと考えられる。一方、高リスク群に対して近年使用頻度が急速に増加している脱メチル化阻害薬のアザシチジンについては、妊孕性への影響に関する報告がほとんど見当たらない。しかし、本疾患を根治可能な治療は同種造血幹細胞移植に限られるため、若年者については診断時から妊孕性に関して考慮しておく必要がある。 本事例は発症当初は低リスク群で、経過観察されていた。高リスク群に増悪した場合に備え、可能であれば妊孕性温存に関する検討を開始し、体調や血液所見が良好なうちに時間的余裕を持って妊孕性温存療法を施行することが望ましい。しかし、症状が増悪した時間的余裕の乏しい状況で施行せざるを得ないのが現実である。 短時間でなるべく多くの卵子を得るには卵巣刺激が必要である。一方、卵巣刺激に伴う卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyper-stimulation syndrome;OHSS)や採卵に伴う出血、感染などの合併症によって原疾患の治療が遅れることは避けなければならない。GnRHアゴニストを併用した調節卵巣刺激(controlled ovarian hyperstimulation;COS)ではOHSSが起こりやすいため、一般にはGnRHアンタゴニストを併用したCOSが推奨される3)。COSに使用するゴナドトロピン製剤は、採卵数10~15個程度を目標として150~225単位/日程度を連日投与することが多いが、本事例ではAMH<1.0ng/mLと卵巣予備能が低く(原因は不明である)、高用量で長期間の排卵誘発を要した。GnRHアンタゴニスト併用COSではヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)製剤の代わりにGnRHアゴニストによる内因性黄体化ホルモン(luteinizing hormone;3がん診療連携拠点病院等(計434)325生殖補助医療実施施設(計605)450妊孕性温存実施施設(94)小児がん拠点病院(計15)564346504115わが国における成人および小児のがん診療施設、生殖補助医療実施施設、妊孕性温存実施施設との関係図2-1* 数字は施設数176-181_healthcare_ABE_03.indd 178-1792019/03/14 14:00最初の見開きページで事例の経過を振り返ります。事例において支援のポイントとなる事柄については3~4ページめで詳しく解説!さらに5~6ページめでは臨床的に困難なケースや工夫が必要なケースでの対応を紹介しています。最初の見開きページはそのまま患者さんやご家族に見せ、情報提供に用いることができます。3~4ページは医療者向けに詳しく解説しています。3~4ページめ3~4ページめ4章「事例で学ぶがん・生殖医療」2章&3章

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る