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10 第1章 以前、タイムトラベルに関する映画を見たことがあります。過去を変化させることによって、現在を変えてしまうのです。この映画では過去の変化によって「暗い現在」が生まれ、主人公らが過去を修復することによって、「明るい現在」に戻るという設定でした。ある時点での不適切な行為から暗い歴史が始まってしまうのです。 このような不適切な歴史は病院では頻繁に発生しています。抗菌薬が適切に使用されてきたA病院に、ある日、B病院から経験豊富な医師が移動してきたとしましょう。その医師は自分の専門分野には非常に詳しいのですが、抗菌薬についてはあまり興味がありません。そのため、感染症の治療や手術前に用いる抗菌薬は全く不適切なものであり、そのような処方を10年以上実施してきたのです。その医師がA病院に赴任して、これまで通りの不適切な抗菌薬を使用し始めると、経験の少ない若手の医師はそれを真似することになります。そして、そこで歴史が始まるのです。不適切に広域な抗菌薬が使用されたり、まったく的外れな抗菌薬が投与されるといった「暗黒の歴史」が始まるのです。そのような歴史は1年も続ければ、その病院に染みつき、なかなか元には戻らないのです。 感染対策チームが抗菌薬の選択について指摘すると、「私はいつも、この抗菌薬を使用しているから、これでいい!」という医師がいます。そのときには、自分が「暗黒の歴史」の創始者になるのかもしれないということ不適切な抗菌薬の選択は後世に伝わる1.そこで歴史が始まる

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