6 私は看護師になりたての最初の3年間、外科に勤務しました。外科は時間に追われ、とても忙しかったのを覚えています。そのときには、「内科はいいな。患者さんにじっくりかかわれるし、お話もたくさん聞けて」と思っていたものです。 ところが実際に内科に行ってみると、「なんでも話してくださいね」なんて言っただけでは、患者さんはそう簡単には心を開いてくれません。患者さんの気持ちや窮状を聞き出すには、こちらがきちんと聴く姿勢になって、それを相手に示していかないとうまくいきません。ですから、内科に異動したとき、どういう態度なら患者さんは話しやすくなるだろうかと、ずいぶん考えました。落ち着いた雰囲気を提供するためには少しゆっくりめに話したほうがよいのではないか、病室に入っていくときもバタバタ入っていくのではなく、ちょっとゆとりを感じさせるような歩き方でないといけないな――。大部屋に入ったときには、たとえば真ん中のベッドの患者さんに用事があるからといって、そこに直行してそのまま帰るのではなく、同室のほかの患者さんたちにも、顔を向けて「こんにちは」と声をかける。そして、そういうちょっとした機会、気づかいをとらえて、「ねえ、看護師さん」というひと言が出てきたりすることもわかってきました。 急性期では、できるだけ動線を短くして、「ロスがないようにしよう」「どうせあそこに行くのなら、ついでにこれとこれもやってこよう」「検温に回っていくときも、必要最低限の情報だけを収集して時間を節約しよう」といった感じで動いていました。業務はこなさなければいけませんから、こういう能力も必要ではあります。けれども、患者さんのもとにとどまってきちんと話を聴くことも、ことに糖尿病のような慢性病の患者さんに対しては非常に大事な作業であり能力だと思います。 糖尿病の患者教育を専門としてきて、「はい、わかりました」と言いながら何も実行してくれない患者さん、不平不満ばかり並べたてる患者さんなど、なかなか手ごわいはじめに
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