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はじめに 「この人は、知識も理解力もあるのに、なぜ行動変容に結びつかないのだろう?」はじめて就職した大学病院から腎・糖尿病・循環器専門病院へ移り、患者教育を中心とした仕事をするようになって数年経ったころから、私は次第に、こちらの期待とは裏腹に教育効果が上がらない患者さんがいることに、ジレンマを覚えるようになっていきました。 そして、心理学や健康行動理論、行動療法など、教育効果を上げるために有用と思われる学問を独学で学びました。しかし、心に響くものがなく、うまく実際の栄養指導に取り入れることができませんでした。そのようなとき、ある雑誌で「コーチング」と出会いました。それは、のちに私の恩師となる柳澤厚生先生(SPIC Salon Medical Clinic 総院長)と鱸伸子先生(有限会社オフィスセレンディピティー 代表取締役)共著のコーチングの連載でした。 「行動を変えないのには、変えない理由がある」「答えは相手のなかにある」「相手のなかにある答えを引き出してあげる」このコーチングの考えに共感し、連載を読み進めるうちに、いつしかきちんと学びたいと思うようになっていきました。地方でのコーチングセミナーだけでは飽き足らず、系統立てて学びたいと考え、意を決して柳澤先生が東京で主催するウエルネス・コーチ養成塾の門を叩きました。土日2日間の研究を合計9回受けるために、1年半、当時住んでいた徳島から東京へ通いました。コーチングと出会って3年の月日が経過していました。しかし、コーチングを学んだからといって、すぐに実際の患者教育の効果が上がるわけではありません。「意識して環境を整える」「意識して相手の話を聴く」「意識して質問をする」など、学んだことを実際の現場で一つひとつ意識しながら用い、スキルを自分のものにしていきました。ここに「コーチングは“意識したコミュニケーション”である」といわれるゆえんであることが、おわかりいただけるのではないかと思います。 本書の漫画で取り上げた患者さんは、すべて私が実際の栄養指導を通してかかわってきた患者さんばかりです。コーチングを学ぶまで、「聞き分けがない」「コンプライアンスが悪い」「服薬アドヒアランスが悪い」などと捉えてき

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