糖尿病は、インスリン分泌低下とインスリン抵抗性によって、正常な細胞内への糖の取り込みが阻害され、慢性的な高血糖状態となる病気です。糖尿病の個々の症例は、成因(発症機序)と病態(病期)の両面でとらえると理解しやすいでしょう。図1)の右向きの矢印は糖代謝異常の悪化、左向きの矢印は改善を示し、矢印の色が濃い部分は「糖尿病」と呼ぶ状態を表します。破線の部分は頻度が少ない事象を示します。 高い血糖値が続くと、特徴のある症状(口渴、多飲、多尿など)を呈しますが、初期は自覚症状が少なく、患者さん本人は病識をもたない場合が多いです。高血糖の持続は血管を障害し、多くの合併症をひき起こします。小さい血管ほど障害されやすく、細小血管症の神経障害、網膜症、腎症が三大合併症と呼ばれています。また大血管症として、虚血性心疾患、脳梗塞などの死に至る病気の発症リスクも上昇します。図 糖尿病における成因(発症機序)と病態(病期)の概念(文献1p.489より改変)引用・参考文献1)日本糖尿病学会.糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告(国際標準化対応版).糖尿病.55(7),2012,485-504. (佐伯 楓・本田一春)病態(病期)成因(機序)正常血糖高血糖正常領域境界領域糖尿病領域インスリン非依存状態インスリン依存状態インスリン不要高血糖是正に必要生存に必要1型2型その他特定の型右向きの矢印は糖代謝異常の悪化(糖尿病の発症を含む)を表す。矢印の線のうち、 の部分は、「糖尿病」と呼ぶ状態を示す。左向きの矢印は糖代謝異常の改善を示す。矢印の線のうち、破線部分は頻度の少ない事象を示す。例えば2型糖尿病でも、感染時にケトアシドーシスに至り、救命のために一時的にインスリン治療を必要とする場合もある。また、糖尿病がいったん発病した場合は、糖代謝が改善しても糖尿病とみなして取り扱うという観点から、左向きの矢印は塗りつぶした線で表した。その場合、糖代謝が完全に正常化するに至ることは多くないので、破線で表した。3糖尿病とはどんな病気?インスリンの作用不足によって起こる、慢性の高血糖状態を主とする糖代謝異常のことです。12糖尿病ケア別冊
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