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透析患者にとってフットケアが大切な理由いられます。入院設備をもたない透析クリニックにとっては、その患者がいなくなってしまうことにつながります。足の切断や歩けなくなることを予防するためにも、透析室でのふだんからのフットケアが必要です。命にかかわるから? 日本透析医学会が毎年実施する統計調査「わが国の慢性透析療法の現況」では、透析患者の死因の順位が毎年発表されています。第1位は心不全(23.5%)、第2位は感染症(21.3%)、第3位は悪性腫瘍(8.4%)、第4位が脳血管障害(6.0%)でした(2018年末データ)3)。このランキングの5位以下をたどってみても、足病や下肢末梢動脈疾患という病名は出てきません。それでは透析患者の足病や下肢末梢動脈疾患は予後に影響しないのかというと、そういうわけではありません。 透析患者に起こる下肢末梢動脈疾患のおもな原因・病態は動脈硬化です。透析患者は、原疾患である糖尿病や高血圧症、また合併する高リン血症によって動脈硬化を起こすのです。死因の第1位の心不全、第4位の脳血管障害に、心筋梗塞(3.6%)を加えた「心血管死」として合計すると、全体の死因の33.1%と約3分の1にものぼります。下肢末梢動脈疾患も、同じ動脈硬化性の疾患である脳梗塞や心筋梗塞との合併が高頻度であるため、軽視できません。 また、死因の第2位である感染症についても考えてみましょう。死因になる感染症といえば、まず肺炎を思い浮かべるのではないでしょうか。一見、肺炎と足病は無関係に思えます。しかし、下肢末梢動脈疾患が重症化して重症下肢虚血となった場合、足先や下肢切断部分の壊疽を起こします。壊疽から細菌が侵入し深刻な感染症である敗血症を来すこともあるのです。また、下肢切断となった場合、歩けなくなって免疫力が低下して、死因となる感染症の代表疾患である肺炎になることもあります。 以上のことから、下肢末梢動脈疾患は透析患者の死因の上位にランクインしていないものの、死因の上位の疾患との関連が深いことから、潜在的な死因となっているとも考えられます。小さな傷でも下肢切断となるような事態を招くこともあり、それが予後にも影響するとなると、現場でのフットケアをけっしておろそかにはできないと思います。医療費にかかわるから? 透析の診療報酬はいまや複雑化していて単純に計算することがむずかしいですが、1回の血液透析(人工腎臓技術料)の点数が約2,000点です(2020年改訂時点で、透析人数と透析時間に応じて10種類ある)。そのため年間の透析回数である156回だと約300万円になりますが、ほかにかかる費用を盛り込むと、1人当たり年間500万円弱かかるといわれています。いまや透析患者数は約34万人ですから、透析医療費だけで約1兆5,000億円にのぼり、増え続ける医療費や社会保障費の足かせになっているともいわれています。 下肢切断(とくに大切断)になったら、歩くことが困難になります。血液透析患者は週3回、1年に156回も通院が必要となるので、通院困難に陥ります。介護タクシーや送迎を利用すると、そこにも費用がかかりますし、9

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