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第1章保健指導に活かすアドラー心理学のエッセンス31 アドラーは「分割できないものとしてのひとつの人間」を扱うという意味で、自身の理論を「個人心理学」と称しましたが、日本では「アドラー心理学」とよばれるのが一般的です。 第一次世界大戦で、当時四四歳だったアドラーは軍医として戦場での悲惨な現実を体験したことにより、人類がよりよく生成発展していくためには、「他者を敵とみなし争う」のではなく、「協力し合う仲間とみなす共同体感覚が必要である」という思想へと目覚めていきました。そのためには、幼い頃からの「育児」と「教育」でそのことを伝えていくことこそが人類を救う方法だと考えるようになりました。 戦後の荒廃したウィーンに戻ったアドラーは、市に働きかけて児童相談所を設立しました。青少年の非行と犯罪が社会問題化するなか、公開カウンセリングという手法を用いることで大きな成果をあげ、アドラー心理学はウィーンからヨーロッパの国々へと急速に発展していきます。のちにナチズムによるユダヤ人への迫害を恐れたアドラーは拠点をアメリカへと移し、その活動をさらに広げていきました。 フロイトやユングの心理学、そしてアドラー心理学も、精神的に病んだ人々に「心の健康」をもたらすために生み出されたものですが、アドラー心理学はより現実的で人々の生活に根差した実践的な心理学だといえます。アドラーの理論は『人を動かす』のデール・カーネギー、カウンセリングの父カール・ロジャーズ、欲求段階説のアブラハム・マズロー、『夜と霧』のヴィクトール・フランクル

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