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はじめに 遷せん延えん性せい意い識しき障しょう害がいとは、種々の原因で引き起こされた脳損傷により「①自力移動不可能、②自力摂食不可能、③糞便失禁状態にある、④たとえ声は出しても意味のある発語は不可能、⑤目を開けて、手を握って─などの簡単な命令にはかろうじて応じることもあるが、それ以上の意思の疎通は不可能、⑥眼球はかろうじて物を追っても認識はできない」といった6項目を満たすような状態が、ほとんど改善がみられないまま3カ月以上続く状態とされています。ほかの慢性期疾患の場合と同様に、遷延性意識障害の患者さんに対しても国の施策として在宅での医療や介護を行うことが推進されています。しかしながら、わが国の遷延性意識障害の患者さんの在宅医療における環境は、地域格差もありますが概して決して満足のいくものではなく、たいへん厳しい状況です。 本書は、遷延性意識障害の患者さんのご家族が、患者さんを在宅医療・在宅ケアされる際に、その一助となることを目的として制作されたものです。現代の先進医療をもってしても、遷延性意識障害という病態とその治療法についてはほとんどなにもわかっておらず、いまだ挑戦し続けるべき問題が山積しています。医療従事者は、患者さんとご家族とともに、これらの問題を注意深く見つめ続け、決してあきらめることなく挑戦し続けなければなりません。 本書は日本意識障害学会による編集として制作されましたが、この学会は1992年に意識障害の治療研究会として発足以来、意識障害の患者さんの診療に携わる脳神経外科医、神経内科医、救急医、看護師、作業・理学・言語療法士などの多職種が一堂に会し、遷延性意識障害の病態、治療、ケア、リハビリテーションなどについて包括的に議論を行う特徴的な学会として発展してまいりました。 患者さんとご家族も参加される、他に類をみない特色のある学会であり、在宅管理時の悩みや不安に基づく多くの質問やご家族間の意見交換などがなされる有意義な会ではありますが、学会参加者からは、手元に常備して困ったときにはいつでも頼れる本の出版が希求されてきました。そこで、全国遷延性意識障害者・家族の会の皆さまからも内容に関してご意見をいただき、医療従事者とご家族のための意識障害患者在宅ケアサポートを目的としたハンドブックを制作することといたしました。 本書の上梓にあたり、ご協力、ご執筆いただいた皆さまに深謝申し上げるとともに、少しでも遷延性意識障害の患者さんとご家族のお力になれることを切に願っています。 2018年2月大阪医科大学脳神経外科 教授 黒岩 敏彦藤田保健衛生大学脳神経外科 教授 加藤 庸子iii
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