第 章1 基本方針と考えかた 次に、訪問看護師は女性スタッフが9割以上であり、性別に偏りがある職業集団です。一般的に女性は、暴力・ハラスメントの攻撃対象になりやすいといわれています。そして、サービスを提供する職場環境の密室性が高く、発生したとしてもその事実を証明することが難しい状況があります。そのため、利用者や家族の抑止力がきかない状況が起きやすくなります。特に、暴力・ハラスメントが発生する危険性が高い場所は、浴室、台所、寝室です(諸外国の場合は、地下室という報告もあります)。 また、事業所と利用者宅までの物理的距離があるため、すぐに救援に向かえないこともあります。さらに、事業所から利用者宅までの移動時に、利用者や家族以外からの攻撃やトラブルに巻き込まれるリスクがあります。特に、24時間訪問巡回サービスを展開している事業所も多く、夜間の移動、夜間の利用者宅の訪問は暴力・ハラスメント被害の危険性を高めることにつながります。 いざというときのために携帯電話を所持しても、暴力・ハラスメント被害が発生した利用者宅で緊急通報することは困難です。そして、利用者宅には人を攻撃するためのあらゆる道具が豊富に存在します。医療機関に危険物を持ち込み、使用することはできませんが、生活の場である利用者宅には、刃物類、ガラス・陶器類、ストーブ、ペット、薬(危険ドラッグや違法薬物を含む)などが存在し、身近な物が攻撃の道具として使用される場合があります。 訪問看護のための利用者に関する情報提供や申し送りはあっても、利用者・家族から受けた暴力・ハラスメントの被害や危険性に関する情報が少なく(あるいはまったく情報がない)、あらかじめ予測して対応することができません。加えて、小規模事業所が多く、1事業所において十分な安全対策を講じることが経済的にも人員的にも難しい現状です。 医療機関や福祉施設では複数のスタッフが勤務しているため、暴力・ハラスメントの発生時にチームで対応ができますが、在宅ケアの現場では、基本的に1人で対応せざるを得ないため、高い対応スキルが一人ひとりに求められます。また、これまで在宅ケアの現場で、暴力・ハラスメントを経験していない、あるいは発生していないと思っている方でも、今後も被害を発生させないように、一度、この問題と向き合っていただけるとうれしく思います。11
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