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先日、高齢の母と暮らしている弟から急に電話がありました。「母が玄関で動けなくなっている、“当たった”のではないだろうか?」。“当たった”とは、青森県の方言で脳卒中のことを言います。脳卒中発作は英語でstroke(打つ)です。“打つ”も“当たる”も、何とも病態を表していて面白い表現だと思いますが、それはさておいて……。皆さまならこの後、電話で家族に何を確かめますか? そして、母は何が原因で動けなくなったのでしょうか?私はまず、「意識はあるの? しゃべれるの?」と聞きました。すると遠くから「大丈夫だ、ちょっと立ち上がれなくなっただけだ」という声が受話器越しに聞こえてきます。どうやら意識はあるようですし、言語障害もないようです。次に血圧を計測させました。すると、「130/80、脈128」でした。血圧は良いですが、頻脈が疑問です。もしや発熱による頻脈では?と考え、体温を測ってもらったところ「38.5℃」だったのです。母は熱があるなんて全く気づかなかったそうです。そういえば3日ほど前から「食べる気がしない」と食事をあまり取らずにいたようです。日曜日でしたので飲水を促し、月曜日の朝に近医に受診させました。診断は「尿路感染、脱水、貧血」でした。身内の例でお恥ずかしい限りですが、出ている症状は「立ち上がれない」で、原因は「尿路感染」です。原因と症状との関連性が薄いこと、自分の身体の異常のサインを適切に感じ取ることができないこと、表現することができないこと、全て高齢者の特徴です。本書は、このような高齢者の実態に合わせたアセスメントができるように考えられたものです。そして、今回、素晴らしい臨床家であり、倫理観にあふれた大西基喜先生に原稿を見ていただくことができたのは、光栄の限りです。事例案をもって相談に伺った際に、“実はこんな事例があるんだよ”、と3章の事例6「元気になってきたので食べられるのではないか」の原案をいただきました。ADLが自立していた90歳の方が肺炎になり入院した後、肺炎は緩解しても元のADLに戻す医療が適切に提供されない事例でした。私はこれまで「フィジカルアセスメントを看護(ケア)に活かす」ために活動してきたつもりです。しかし、私が大西先生に持ち込んだ事例は「異常に気付く」ものばかりでした。「良くなる、良くする、QOLを上げる」という看護の神髄に、フィジカルアセスメントを使いきれていなかったことに気づかされました。「その人の可能性の幅を広げる」事例を増やしたかったのですが、実力と紙面の関係で十分にはできず、今後の宿題としたいと思います。また、編集担当の二畠さん、中島さんには、実際に看護師が困っている事例収集からさまざまなサポートをしていただきました。本書を皆さまの多様な「現場」で役立てていただければ幸いです。どうかご意見をお聞かせください。2017年2月                               角濱春美はじめに

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