302270790
11/12

005はじめに〜施設や在宅の食の現状第1部 もう一つ大きな理由があります.それは本書のテーマである認知症の高齢者が多いということです.認知症高齢者は意思疎通が困難なことが多く,訓練の指示がうまく伝わりません.訓練などに対する意欲がなくなるのも認知症の症状です.訓練は継続して初めて効果がみられるものですが,認知症高齢者ではその継続が難しくなるため,嚥下訓練の適応になりません. それ以上に重要なのは,認知症の多くは進行性の疾患であるということです(図4).いろいろな捉え方がありますが,認知症は医学的にはだんだんと機能が低下していく病気であり,認知症によって生じる機能低下は訓練で抗えるものではありません. ただし慢性期や認知症であっても訓練が奏効することがあります.それは,嚥下機能に廃用*を生じているときです.例えば長期にわたって口から食べることを禁止されていた認知症高齢者においては,「認知症による嚥下障害」と「廃用による嚥下障害」を生じています.このときは廃用に対しては訓練が効きます.でも,何度も言うようですが,廃用の部分は回復させられても,認知症によって悪化した部分は訓練では改善できません. 過度の運動制限などをすることによって,筋力が衰えてしまい,本来であればできるはずのことができなくなることです.*ALS(筋萎縮性側索硬化症)という病気をご存知でしょうか? 徐々に全身の筋力が低下していき,最終的には呼吸筋の機能も低下して死に至るという残念ながら現代医療では治療法がない病気です.もしALS患者さんのケアにあたったことがあれば,ALSでみられる筋力低下を訓練で食い止めることは不可能であるということは想像できると思います.極論をいえば認知症もALSと同じ進行性の疾患ですので,認知症によって生じた嚥下機能低下を訓練で改善させることは不可能であり嚥下訓練の適応になりません.訓練で回復できない,機能低下を止められない認知症の経過の概念図図4生命活動低高時間認知症発症認知症は徐々に症状が悪化していく進行性の疾患です.脳卒中後とは経過が大きく異なります.

元のページ  ../index.html#11

このブックを見る