302270790
8/12

002 「〇〇さん! ちゃんと口開けて! しっかりと飲みこんで!」高齢者施設の食事場面でよく聞こえてくる声です.口を開けてくれない,口に食べ物を溜めて飲みこまない,ゲホゲホとムセながら食べているなどなど,施設に限らず病院や在宅においても,そのような食事の介護者は苦労が絶えません(図1). 介護者に「大変な介護の内容」のアンケートを取ると,必ず上位にくるのが食事,入浴,排せつの3つです.入浴や排せつ介助も重労働であり確かに大変だと思いますが,食事の介助は他の2つとは異なり,うまくいかないと低栄養や肺炎の原因となり,生命予後に直結するため心理的に非常に消耗するものです. 食事がうまくいかない高齢者の家族にとっては,介助の大変さだけではありません.「食べる量が減った」「食事のたびにムセる」といった症状は,食べてくれないイラ立ち,予後が分からない不安感,死への恐怖といったさまざまな思いへとつながります.また,家族には「食べてほしい」という強い思いがあります.「食べる」という行動を見て,その高齢な家族の生命を感じ取っているのかもしれません. 食べ物を口に入れて飲みこむ動作のことを摂食嚥下もしくは単に嚥下といいます.そして,それが障害された場合を摂食嚥下障害もしくは嚥下障害といいます.嚥下障害と聞くと,食べたものがノドから食道ではなく気管に入る「誤嚥」を思い浮かべるかもしれませんが,誤嚥だけが嚥下障害の症状ではありません.食べない,食べこぼす,丸飲みなど,口から食べるという嚥下動作のうちのどこか一つでも障害された状態を嚥下障害といいます(表1).高齢者ではこの嚥下障害があるため食事の介助が非常に難しく,大変な介護となります. 嚥下障害を改善するために行われるのが,「摂食嚥下リハビリテーション(嚥下リハ)」で高齢者のケアの現場から1施設の食事場面図1施設には食事時にさまざまな介助を必要とする高齢者がいます.摂食嚥下リハビリテーション2

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る