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認知症ケアの変遷 わが国は世界に先駆けて超高齢社会を迎えました。長寿を迎えるということは、認知症になるリスクも高まるということであり、この超高齢社会における最も大きな課題は認知症に対する取り組みだと言えます。そして、これはわが国に限らず、世界的な課題になっています。 現在、臨床の場では高齢の入院患者が多くなり、手術においても、たとえ90 代でもその年齢が重要ではなく、その人の心身機能が手術に耐えられるのなら行われるようになっています。それはまた、医療技術の進歩とともに特別なことではなく、日常、私たちがケアする患者さんにも80 代、90 代、時には100 歳を超えるような方も多くなってきました。救急搬送されるのも高齢者が増えている状況です。このような臨床の場の変化は、認知症をもつ方の入院が増えることにもつながり、認知症の患者さんが入院してきたとき、私たちはどのようにケアを実践していったらよいのかを考えていかなければならない状況に直面しているといえます。1.家族ケアが中心の時代 認知症については、1972 年に『恍惚の人』の出版・映画化が、社会に大きく警鐘を鳴らしました。1970 年代は老人医療費の増大が顕在化し、当時は、認知症介護の身体的負担以上に精神的負担が大きく、気の休まる暇がないという家族の負担ばかりがクローズアップされていました。当時、わが国における認知症ケアは家族ケアが中心であり、認知症に伴って起こる行動や症状の変化を「問題行動」として捉え、家族や医療従事者には迷惑なことだと考えてきました。患者さんへの対応も、起こっている症状を抑え込むような対応、例えば身体拘束や介護衣を使用したり、薬によって症状を鎮静させたりするケアや、何もない殺風景な環境の中でのケアが行われていました。認知症の人が悪性腫瘍や脳血管障害、骨折などで入院しなければならなくても一般病院での受け入れは難しく、実際にその受け皿がないという現実も認知症とはどんな病気?8

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