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011総 論早産児・低出生体重児とディベロップメンタルケアも発達遅延もないのに幼稚園などの集団生活に入るとみんなとうまくやっていけない児に稀ならず遭遇し,それは高次脳機能障害によって相手の心が読み取れないcommunication disorderに起因することがわかってきた. 近年の脳科学の研究により,幼い動物に過剰なストレスを加え続けると,高次脳機能に関わるモノアミン(セロトニンやドパミンなど)受容体細胞のアポトーシスが促進され,さらに大脳皮質の抑制機能がバイパスされて,大脳周辺部の感情や脳幹部の本能的反応が現れやすくなることが知られるようになった. NICUに入っている新生児は,光や音の絶え間ない刺激を受けているだけでなく,採血などの痛みを伴う処置に加え,特に未熟児は体重測定やバイタルチェックだけでも徐脈や血液酸素濃度の低下をもたらしている.それらの知らぬ間に加えられている数えきれないストレスは唾液中のストレスホルモンが増加することでも示されている.さらに脳機能を光トポグラフィーや機能的MRIで測定することが可能となると,そのような児の心の中枢と呼ばれる前頭前野の高次脳機能に異常が認められることから,次第にNICUでのストレスが児の認知機能や社会的行動の異常に関係している可能性が指摘されている3). 人間の人間たる所以は,高次脳機能により相手の気持ちを感じ取る能力であり,それは「心の理論」と呼ばれている.私たちは医療者として,子どもたちの命を救うことや身体的障害を少なくする医療に一応の成功を収めながらも,子どもの心を育む医療においては無知であったことを深く反省しており,そこから生まれたのがDCなのである.それはまさに,これまでのあまりに機械的・技術的に偏った新生児医療から,温かみのある人間的な医療に転換する新生児医療のルネサンスであるともいえよう. それは,医療全体の取り組みが,データからの演繹を重視する医療(evidence based medicine:EBM)から,個々の患者の人間としての物語にも目を向ける医療(narrative based medicine:NBM)に変わりつつあることに通じるものである.2.ディベロップメンタルケアの基本概念とその実際 わが国においても山内逸郎らの新生児医療の先達は,「non-invasive care」や「loving tender care」を新生児医療の原則に加えていたごとく,DCの重要性に異議をもつ者は少ない.新生児の脳は易障害性が高く,脳障害や発達障害を起こしやすいところから,DCによる非侵襲的なケアは特に新生児医療において意味をもつ.また,発達途上にある新生児の脳にとって,良い刺激を受ければ良い発達に,逆に悪い刺激を受ければ悪い発達に向かうところから,「発達を促すケア」と「障害を防ぐストレスの少ないケア」の両面に配慮するのがDCの基本概念である. DCの臨床の実践においては,①あたたかい心を育むやさしさの医療と看護(loving tender care)を提供して児の心(高次脳機能)を守り,②適切な発達を促進する環境(音・光など)と刺激(語りかけなど)を提供し,③家族を視野に置いた医療と看護(family

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