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012oriented care)によって母親と子どもの絆を損なわない配慮,を行う.それらの具体的な内容である,NICUにおける適切な光や音の環境やポジショニングなどに関しては,各章で解説される. 上記のDCの基本概念に基づく実際の臨床において重要なのは,具体的な事柄ではなく,その背後にある「児にやさしさを提供する医療従事者の心」である.そのためには「児が今何を望んでいるか,何を嫌がっているか」を読み取り,それを児に提供することである.例えば,「児がモゾモゾしているのは,その姿勢が嫌だからだ」と読み取り,体位を変えてやることである.そのためには,ベッドサイドで児の心を読み取る観察力を養わなければならない.その実践のトレーニングが,H. Aアルスlsらが開発した以下に述べる新生児個別的発達ケアと評価プログラム(The Newborn Individualized Developmental Care and Assessment Program:NIDCAP)である4).3.未熟児の医療現場から生まれたNIDCAP 新生児医療の進歩に伴い多くの早産児が生存するようになり,胎児のような新生児が子宮外環境で受ける多くのストレスが,児の発育発達に及ぼす影響について配慮されるようになったのは当然であろう. 新生児発達研究のパイオニアであるハーバード大学のTB. Bブラゼルトンrazelton教授の下で,新生児行動評価(The Neonatal Behavioral Assessment Scale:NBAS,新生児の行動を観察し,その状態・意思を評価する手法)を学んでいたAlsは,臨床心理士としてNICUで胎児のような未熟児を観察するなかで,そのようなストレスが未熟児の神経発達へ及ぼす影響を懸念していた. 未熟児では神経細胞のmigrationの途中過程であり,子宮外環境のストレスの及ぼす影響は脳の正常なシステム化形成を阻害し,将来的に児の神経学的発達に障害をもたらす可能性がある.特に高次脳機能の中枢である前頭前野への影響が過剰反応や認知能力の低下をもたらし,それが児の社会性・協調性に問題を引き起こして,母子関係形成にも悪影響を及ぼす悪循環に陥ることが考えられた.実際に養育期間に過剰なストレスが加えられた未熟児は,授乳・睡眠の問題や易刺激性(よく泣く)などの臨床的所見が認められていた. Alsは,彼女自身が障害児をもつ母親である体験から,「All behavior have meanings:赤ちゃんのすべての行動は何かの意味をもっている」と,児を観察することの重要性を認識していた.さらにAlsは,「すべての生命体は,発生のどの時期においても環境との相互作用の中で発達・分化を続けながら進化してゆく.その過程は,適切であれば進み不適切であれば避ける,という二重拮抗作用をしながら環境に調和し,生体としての統合を形作って発育発達してゆく」という生物学の基本概念を,胎児から未熟児・新生児への成熟・成長にも応用して独自の発達共作用理論(synactive theory)を構築し,それに基づく早産児行動評価(The Assessment of Preterm Infants’ Behavior:APIB)
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