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支配するα運動ニューロンに抑制性シナプス後電位(IPSP)を引き起こす。その結果、屈筋が収縮し、伸筋が弛緩する(図1-1)。シェリントンは頸髄を切断して痛みを感じることのないイヌでも、このような屈曲反射が生じることを示した。屈曲反射は生体を脅かす侵害刺激の刺激源から遠ざかろうとする逃避反射であり、生体防御反応である3、4)。屈曲反射は痛みを感じなくても生じるが、侵害受容線維を欠いている無痛無汗症の患者では屈曲反射も起こらず、痛みから逃れる方法も学ぶことができない5、6)。 IASPは侵害受容を「侵害刺激を符号化する神経過程」と定義している2)。侵害受容とは侵害刺激によって引き起こされる、大脳皮質が関与しないあらゆる反応を含む。脊髄が関与する屈曲反射や視床の侵害受容ニューロンの反応などである。単に侵害受容器が侵害刺激を受容することだけではないので、ここでは「侵害受容反応」という用語に言い換えることにする。侵害受容反応と痛みは似て非なるものである。痛みは主観であるのに対し、侵害受容反応は客観的に評価できるので、研究の対象にされる。侵害受容反応は生体防御反応であり、痛みは防御反応を補足する心理過程と考えることができる。痛みは不快な感覚、情動体験であるが、情動というのも単なる負の感情ということではない。負の情動は心拍数を上げたり、汗をかくなどの自律神経反応や、薬を飲んだり、医者に行こうとする動機付けとなる情動行動を引き起こす2)。子どもが痛いときに泣くのは脊髄反射ではなく、上位中枢が関与する情動行動である。さまざまな痛み行動によりコミュニケーションをとろうとするが、慢性疼痛では痛み行動が治療の対象とされる。高次機能が発達したヒトは進化の過程で、痛みが侵害受容反応に付加されることによって生存可能性を高められてきたが、侵害事象に対抗する意味をなさない耐えがたい苦悩が、日常生活を脅かす病態となる場合もある。■ 図1-1 侵害受容反射侵害受容線維(Aδ線維とC線維)を求心路に持つ侵害受容反射は刺激源から遠ざかろうとする逃避反射である。2シナプス反射によって、屈筋を収縮させ、伸筋を弛緩させる。 図1-1 侵害受容反射Aδ線維C線維屈筋収縮⊕伸筋弛緩⊖9第章痛みの生理学1

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