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3.痛みの分類 痛みにはさまざまな分類がある。1)原因による分類:侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、その他の痛み(表1-1) 痛みに対する治療方針を決めるために、痛みの原因を特定することが求められる。動物を対象とした研究の場合は、皮膚や神経の一部を損傷させるというように、痛みの原因を作って研究が行われるので、「侵害受容性疼痛」と「神経障害性疼痛」は明確に異なる。しかし患者が過去に経験した損傷が、現在悩まされる痛みの原因であると結論づけられることではない。原因が複数あり、侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛の両方が混在する「混合性疼痛」である場合もあれば、原因が特定できない痛みも多々ある。このような分類は急性痛の原因の分類であり、損傷が治癒した後にもなお続く慢性痛においては、もはや過去の経験と正確に結び付けることはできない。 侵害受容性疼痛は、その発生機序に侵害受容器が関与する痛みである。IASPの定義にある「組織損傷後」による痛みである。ちなみに、「潜在的な組織損傷」による痛みというのは、注射針で刺したり、有鉤ピンセットで一瞬つまんだりするというように、組織損傷を伴わないほど短時間の侵害刺激による痛みを示す。組織損傷後による痛みは、切り傷、骨折、筋肉痛などの体性痛や、胃腸炎などの内臓痛などである。術後痛なども侵害受容性疼痛である。侵害受容性疼痛は生体警告系の役割を果たすものであり、治療と同時に痛みを緩和することが望ましいが、原疾患を治療すれば痛みもおさまる。多くの侵害受容性疼痛には炎症が関わるので、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が奏効する。プロスタグランジンが関与しない筋肉痛などでは当然、NSAIDsやオピオイド系鎮痛薬は奏効しない。 神経障害性疼痛は末梢神経または中枢神経の損傷や病変によって直接引き起こされる痛みである2、3、7)。損傷神経は体性感覚神経系に限定されるものであり、運動神経や自律神経の損傷は含まれない。筋肉でもなく、内臓でもなく、「神経」に原因がある痛みという意味ではなく、侵害受容器が関与するのではなく、一次求心性神経や伝導路に原因がある痛みである。神経障害性疼痛は病的な痛みである。正座による痛みも末梢神経の圧迫による神経因性疼痛であるが、このような生理的な痛みは神経障害性疼痛には含めない。神経の外傷だけでなく、代謝性、感染性、虚血性のさまざまな疾患に起因する。末梢性の神経障害性疼痛には三叉神経痛、帯状疱疹後神経痛、糖尿病性の末梢神経障害による痛み、複合性局所疼痛症候群、幻肢痛などが含まれ、中枢性の神経障害性疼痛には脊髄損傷による痛み、脳卒中後痛、多発性硬化症における痛みなどが含まれる。電気が走るような、灼けつくような、ひりひりするような痛みなどと表現される。自発痛もあるが、神経の損傷部位に対応する領域は感覚が鈍麻しているにもかかわらず、刺激によって痛覚過敏、アロディニアやしびれが伴われる。神経障害性疼痛には抗うつ薬や抗けいれん薬が奏効するが、難治性の場合も少なくない。 あらゆる痛みは心理社会的ストレスによって修飾されるが、基質的な原因が特定されない痛みも少なくない8)。米国精神医学会による『精神疾患の診断・統計マニュアル』(DSM)10
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