T290470
13/14
の用語は版によって頻繁に変わるが、身体生理的な要因が見あたらない痛みは「身体表現性疼痛障害」や「身体化障害」と分類される。正確な表現ではないが、心の苦しみが身体の痛みとして表現されるものである。心因性疼痛という用語は実は不適切な表現であると私は考えないが、気のせいによるものであると納得できるものではなく、患者自身はこのような痛みを身体に原因がある痛みと区別できないのである2)。過敏性腸症候群、線維筋痛症、低髄液圧症などは機能性身体症候群と呼ばれることもある。心理社会的要因が大きく関わる痛みには鎮痛薬は奏効しないので、運動療法や心理療法が有効とされる7)。機能的な痛みだけでなく、患者の痛みの訴えには常に心理社会的な要因が関わるので、あらゆる痛みに対して全人的評価が必要である。2)急性痛と慢性痛(表1-2) 組織や神経損傷による「急性痛」のほとんどは遷延せず、損傷の修復の自然経過に伴い消失する。「慢性痛」という用語は3カ月以上持続する痛みと定義されることもあるが、時間経過で定義されるのではなく、損傷が癒えた後にもなお持続する痛みとして問題視されている。急性痛は本来生体に備わった生理的な痛みであり、慢性痛は生物学的には意義が薄い。このような見解では、がんやリウマチ患者の痛みは急性痛が持続した状態であり、慢性痛に含めない。急性痛においては「交感神経-副腎髄質系」の活動が優位であり、血圧は上昇し、呼吸数が増加し、発汗が促進される。慢性痛では交感神経系は優位ではなく、うつ、不安、怒りや睡眠障害が伴われる。非特異的腰痛患者や線維筋痛症の患者は「破局■ 表1-1 疼痛の種類発生機序内 容治 療侵害受容性疼痛侵害受容器が関与「組織損傷後」による痛み:切り傷、骨折、筋肉痛などの体性痛や、胃腸炎などの内臓痛非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が奏効神経障害性疼痛一次求心性神経や伝導路に原因末梢性の神経障害性疼痛:三叉神経痛、帯状疱疹後神経痛、糖尿病性の末梢神経障害による痛み、複合性局所疼痛症候群、幻肢痛中枢性の神経障害性疼痛:脊髄損傷による痛み、脳卒中後痛、多発性硬化症における痛み抗うつ薬や抗けいれん薬が奏効その他の痛み不明原因の特定できない痛み、身体表現性疼痛障害、機能性身体症候群(過敏性腸症候群、線維筋痛症、低髄液圧症)など運動療法や心理療法■ 表1-2 急性痛と慢性痛急性痛遷延せず、損傷の修復の自然経過に伴い消失交感神経-副腎髄質系優位慢性痛損傷が癒えた後にもなお持続する痛み交感神経系は優位でない11第章痛みの生理学1
元のページ