発達はいつから始まるの? それは受胎したときから。妊娠がわかったと同時におなかに話しかけたり、音楽を聴かせたりする妊婦さんもいると思います。出生後は、目の前に子どもがいる喜びを感じるとともに、初めての経験に戸惑うことも多いでしょう。新生児、乳児、幼児と子どもは成長し、発達していきますが、その時々で子育ての楽しさ、喜びを実感すると同時に、発育や発達の不安や心配も少なからずあるものです。 新生児集中治療室(NICU)を退院した子どもを発達外来で診ていると、緊張して体を硬くしている場合があります。お母さんも抱きにくさなどから不安を感じておられます。小児リハビリ施設に紹介すると、お子さんとお母さんの表情が柔らかくなり、笑顔が増え、発達もどんどん伸びていきます。NICUでもお母さんにも手伝ってもらって入院児に理学療法や摂食訓練を行うと、短時間にもかかわらず、赤ちゃんとお母さんの表情がぐっと良くなります。今までに見せたことのない、とても素敵な表情がそこにはあります。母親は子どもにしてあげられることがあること、子どもは微笑みや声かけ、触ってもらうことで、共に心が満たされるのでしょう。 私は新生児医療に携わる中で、一時臨床を離れ、新生児仮死後脳症の治療研究を行った時期があります。米国留学を含め約7年間、動物モデルを使った治療研究に没頭しました。研究者としての道もありましたが、やはり子どもの成長にご家族と一緒に寄り添えることが何事にも代えがたく、帰国後はNICUと発達外来で診療を続けています。その中で、子どもの発達を支える療法士と知り合い、熊本POSC療育支援チームとしてこの本を作りました。 子どものそばに常にいるのはご家族であり養育者です。医学や医療がいかに進歩しても、子どもの成長、発達の支援者はご家族、養育者にほかなりません。そしてそのことを支えるのは地域社会であり、地域での子育て支援、発達支援(療育)です。ご家族には、子どもの発達に目を向けた子育てに、また発達や療育に関わる医療者には地域での子育て支援に、本書を使っていただけたら幸いです。 2019年4月岩井正憲に話
元のページ ../index.html#3