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胎児心拍数モニタリングの有用性10 胎児心拍数モニタリングの有用性はじめに 本項では,胎児心拍数モニタリングについての簡単な歴史と,現在まで考えられている胎児心拍数モニタリングの有用性についてお話しします.■研究発展の歴史胎児心拍数モニタリングと新生児脳症 1960年代から,この分野の代表的な研究者であった米国のホン(Edward H. Hon),ウルグアイのカルデロ−バルシア(Caldeyro-Barcia R.),スイスのハンマッカー(Konrad Hammacher)などを中心に,胎児心拍数モニタリングの研究が進められ,胎児心拍数パターンと胎児低酸素血症や子宮内胎児死亡,胎児血pH,Apgarスコアとの関連が示唆されました.胎児心拍数モニタリングが導入された当初,新生児中枢神経障害は分娩中の低酸素血症を原因とするため,胎児心拍数モニタリングにより早期に低酸素血症を発見できれば,悪化した子宮内環境から胎児を救出することで,脳性麻痺と精神遅滞の発生を予防できると考えられていました1).実際にこの時期の報告では,分娩中に胎児心拍数モニタリングを施行すると,分娩中および新生児期の死亡数の減少が認められ,低Apgarスコア値や新生児蘇生の頻度が減少したと述べられています.しかしその後の1970〜1980年のはじめに,前方視的無作為抽出試験(胎児心拍数モニタリングと間欠的胎児心拍数聴診法との比較)が行われて明らかになったことは,①胎児心拍数モニタリングにより低Apgarスコア値,胎児血pH低値,新生児蘇生,NICU入院などは,間欠的胎児心拍数聴診法と比べて減少しなかった,②胎児心拍数モニタリングにより胎児ジストレスが安易に診断され帝王切開率が増加した,ということで,予想とは反しており,cost benetという面で本当に胎児心拍数モニタリングが有用なのかという議論が持ち上がりました.これらの無作為抽出試験のうち,唯一の利点はDublin trialで認められた新生児痙攣の減少といわれています2)が,③新生児の長期的予後としての中枢神経障害は減少していなかったことも示されています3).しかしながら,胎児心拍数モニタリングや間欠的胎児心拍数聴診法施行群と,これらのモニタリングをまったく行わなかった群との比較を行うことは倫理的に不可能であり,実際には行われていません. 現在では,リスク因子の有無にかかわらず,胎児心拍数モニタリングが行
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