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v 分娩を取り扱う者にとって最も怖いのは,正常な分娩経過をたどっていた妊産婦が急変することです.いったん急変すると,さまざまなショックの病態を呈し,一気に全身状態が悪化します.最悪の事態を避けるためには,妊産婦に特化した蘇生法を学び,急変に対応する必要があります.しかし,産婦人科医,中でも開業医の多くは,これまで救命処置や蘇生法について学ぶ機会がありませんでした. 日本産婦人科医会の「研修ノート」や「母体安全への提言」でも,母体急変に対する対応の習得の重要性を説いています.さらに「産科危機的出血への対応ガイドライン」においては,危機的な出血が発生した場合に適切に対応するため,「各施設が置かれている状況を反映させた院内マニュアルを整備しシミュレーションしておくこと」が提言されています. 新生児については,既に蘇生ガイドラインに基づいた救命処置セミナーが普及しており,新生児の救命率向上に寄与していることは周知のことです.しかし母体に関しては,急変対応に特化したプロトコールや,それに基づいた救命処置セミナーのプログラムは存在していませんでした.「院内マニュアルを整備」するにも,具体的に参考となるものがないのです.このような状況で「シミュレーションしておくこと」は困難です. ここで「院内マニュアルを整備し,シミュレーションしておく」ことを目指すとき,障壁となるものは何かについて考えてみましょう.多数ありますが,主なものとして 1.妊産婦・褥婦の急変時に特化したプロトコールがない 2.シミュレーションの方法がわからない 3.蘇生の基本的な実技指導をしてくれるインストラクターがいないこの3つに集約できると思います.われわれ京都産婦人科救急診療研究会では,2010年から3年かけて,この3つの壁の克服に取り組みました. 一般の救命処置トレーニングプログラムであるBLS(Basic Life Support)やALS(Advanced Life Support)の講習会は,各都道府県の基幹病院で頻回に開催されています.ただし,これらは一般成人の心・脳の循環不全への対応が中心となっており,これをそのまま導入しても,妊産婦の特殊な病態に即した十分な対応はできません.そこで,2010年に京都府産婦人科医会は,京都大学医学部と京都府立医科大学の産婦人科学教室および救急部門の教室にお願いし,「母体急変時の初期対応:京都プロトコール」を作成していただきました. このプロトコールも,NCPRやその他の蘇生コースと同様,座学だけではいざというときに使いこなすことはできません.シミュレーションを重ねて緊急時に反射的に対応できるようにはじめに:母体救命のために,今こそシミュレーションを!

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