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vi訓練しておくことが必要です.そのため,同じく2010年から,われわれは救急医の指導の下でプロトコールに沿った実技コースを創り,各地で開催してきました.シミュレーション教育に習熟している救急医と連携することで,上記の3つの壁を取り払うことができました. プロトコールの目的は,母体の急変発生時に第一発見者が適切な救命処置と心肺蘇生を躊躇せずに行いつつ,機を逸することなく高次施設への搬送(総合病院であれば集中治療室入室)ができることです.実技コースでは具体的に以下の内容を「体で覚える」ことを学習目標に掲げています. 1.バイタルサインから客観的に急変を認識できる 2.大量出血時に輸液・酸素投与を的確に実施できる 3.意識障害を的確に診断できる 4.マスクによる適切な補助換気ができる 5.呼吸停止や循環停止を速やかに判断できる 6.適切な妊産褥婦の一次救命処置を実践できる 7.迅速に高次施設に搬送できる(院内の応援を呼び集中治療につなぐ) これらは格別に難しいものではなく,開業医のみならず周産期医療に携わるスタッフ全員が理解しておくべき内容です.本書はこの京都プロトコールおよびコースの学びに必須の病態生理や基礎的知識を救急医の目線で解説し,代表的な産科疾患への対応をシナリオ形式で読み込むことで応用力が身に付くよう意図して編集したものです.対応が遅れて後手に回った症例をもとにシナリオを作り,臨場感を出すように努めました.J-CIMELSの実技コースの受講前後に読んでいただくためのテキストとなっています. J-CIMELSの特色は,救急医と麻酔科医の協力を得ていることです.救急医には蘇生の基本的知識に加え,敗血症の診断基準や神経学的所見の取り方,搬送の基準などについてもわかりやすい解説を加えていただきました.また麻酔科医には産科麻酔における具体的な注意点についてご執筆いただきました.ショックの病態は,通常われわれが考えている以上に早い段階から始まっています.本書で救急医の指摘する急変の感知のポイントは,われわれ産婦人科医にとって大いに参考になります. 実技コースの内容が実際の臨床に即して具体的であったこと,救急医から直接最新の救命法を学べることが評価され,2015年には日本母体救命システム普及協議会(Japan Council for Implementation of Maternal Emergency Life-Saving System;J-CIMELS)の基本コースに採用され,現在までに数多くの産婦人科医,助産師,看護師,救急医が受講されています.

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