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8 「染色体の病気」とか「染色体の異常」といった言葉をよく耳にしますが、正しく理解するのは意外と難しいです。そもそも、「染色体」とは何か、「染色体」と「遺伝子」と「DNA」は何が違うのか、といったところから紛らわしいでしょう。しかし、そこをきちんと押さえておかないと大きな誤解が生じることがあります。たとえば、「染色体の病気は遺伝病の一種である」とか、「染色体の病気であるダウン症候群は遺伝する」などといった誤解です。それでは実際のところ、染色体と遺伝子とDNAは何が違うのでしょうか? 親子がしばしばよく似るのは、その姿かたちの性質を伝える何かが存在するからだろうと昔から想像されていて、その仮想物質を「遺伝子」と名付けてきました。その後、科学の進歩によって、遺伝情報を担う遺伝子の実体として「DNA」が発見されたのです。 DNAと遺伝子は、ほぼ同じ意味に使われることがありますが、正確にいうと、DNAとはヌクレオチドといわれる最小単位の化合物がつながった高分子の生体物質です。それに対して、遺伝子とは物質そのものではなく、親から子に伝わり、姿かたちを発現するもととなる情報、すなわち上で述べた遺伝形質のもとを意味します。 DNAの中には「アデニン(A)」「チミン(T)」「グアニン(G)」「シトシン(C)」の4つの種類の塩基があります。この塩基の並び方がいわゆる遺伝情報であり、生体の設計図になっています。 DNAは「文字」に、遺伝子は文字が集まった「メッセージ」に例えると分かりやすいかもしれません。そうなると、染色体は文字がたくさん集まった「本」みたいなものということになるでしょうか。1.DNAについてもう少し詳しく DNAは、正式にはデオキシリボ核酸(deoxyribonucleic acid)といわれ、細胞の中心の核の中に存在しています。右巻きの二重らせん構造をしていることはよく知られているかもしれません(図1)。デオキシリボース(糖)とリン酸、塩基からなるヌクレオチドが多数つながって鎖のようになったものがDNA分子です。上述したように、塩基にはA、T、G、Cの4種類があって、二重らせんの内側に並んでいます。それぞれAとT、GとCは水素結合で結び付き、ペアとなって存在しています。一方の鎖が、たとえばATGCと続いていると、もう一染色体と遺伝子とDNAの 基本1

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