はじめに 2013年4月、いわゆる新型出生前診断(non-invasive prenatal genetic testing;NIPT)が開始され、新聞やテレビなどで大きく報道されました。そのためか、医療施設において妊婦さんや妊娠を望む女性から出生前診断について聞かれたり、あるいは実際に検査を受けたいと希望されたりすることが多くなってきました。一般的な出生前診断のニーズが高まってきているのを肌で感じます。 高齢であることを心配したり、上の子どもが何らかの病気をもっていたりして、実際に妊娠した後で妊婦さんが不安を感じるのは、ある意味当然のことかもしれません。それに対して医療者側も真摯に対応する必要があります。「最近の出生前診断については詳しくないから」とか、「『命の選別』につながる羊水検査には個人的にあまり賛成できないから」といった、いわば突き放すような対応は望ましくありません。 日常診療の中で看護師や助産師がそのような女性にきちんと向かい合うためには、出生前診断や、その基礎にある遺伝学についての簡単な知識がとても大切になってくるでしょう。2003年にヒトゲノムの全塩基配列が解読されて以来、現代の医療はゲノムの方に大きく方向転換しつつあります。NIPTの実用化もその成果の応用です。数年以内には、さらに新しいタイプの出生前診断が国内に導入されることが必至であり、そういったことにも目配りが必要となってくるはずです。 医療機関が出生前診断に正面からきちんと取り組むと、検査結果いかんでは妊婦さんとそのパートナーが、いやが応でも厳しい状況に向き合うことになるかもしれません。そういったときの告知や意思決定のためのサポートなどが大きな課題になります。そして、残念ながら妊娠継続を諦めたとき、すなわち選択的中絶を選んだときには、どのようなケアやサポートを行うべきでしょうか。 本書では、これまであまり論じられることのなかったテーマを扱います。ときには倫理的な問題が生じますが、必要があれば、あえてそれも避けずに論じてみようと思います。ですから、本書は教科書というよりも、皆で試行錯誤しながら望ましいケアを考えるための提案のようなものかもしれません。本書のテーマや内容について、多くの方々からご意見やご教示をいただければ幸いです。宮城県立こども病院産科 部長東北大学大学院医学系研究科先進成育医学講座胎児医学分野 教授室月 淳
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