精神科領域でフィジカルアセスメントは大事です。それは、精神科患者は主観的な症状を適切に表現できないことが多く、身体症状の表現と妄想との境界もあいまいで、客観的な所見が身体疾患の唯一の手がかりになることがあるからです。本書でも、基本的に患者の訴えが乏しく、診察手技に対するレスポンスもあまりないことを前提として、話を進めていきます。 フィジカルアセスメントの目的は、看護ケアにその情報を生かすことです。ただ精神科看護ではそれに加えて、精神科医が見落としがちな身体合併症を拾い上げるという重要な役割もあります。これは、より積極的に身体疾患を見つけ、早期に身体治療に橋渡しするという、精神科身体合併症看護のなかのひとつの分野と考えてもよいでしょう。そのためには、疾患を正確に診断できる必要はありませんが、状態像(呼吸不全、腹膜炎、ショック、脳卒中など)の把握まではできるようになりたいところです。疑いでもよいので、状態像や緊急度を把握することができれば、スムーズに医師につないだり、単科精神科病院であれば高次医療機関への搬送を検討することが可能になります。 フィジカルアセスメントは、写真と図が豊富でわかりやすい教科書がたくさん出版されているので、1冊は持っておく必要があります(お金がなければ、図書室で読むか、病棟で買ってもらいましょう)。 ただ実際の精神科臨床ではなかなか教科書どおりにはいきません。なぜなら精神科臨床ではさまざまな制約が出現するからです。また教科書の詳しすぎるバイタルサインやフィジカルアセスメントの機序解説は、忙しい精神科看護の臨床では、逆に学習効率の妨げになります。しかし教科書が役に立たないかというと、そういうわけではありません。教科書は辞書のようなものなので、教科書と臨床のギャップ(表)を理解できれば、焦点が絞られた効率的なフィジカルアセスメントが可能です。そのため本書を読んでから、教科書を読んで知識を広げるのもよいし、教科書をひと通り読んでから、効率のよい方法を本書で習得してもよいでしょう。 患者の体の状態を把握するうえでいちばん重要なのは、バイタルサインです。はじめに
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