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今でこそ,先進国の仲間入りをしている日本であるが,つい90年ほど前までは,現在の発展途上国よりも健康水準は低かった. ある国や地域の総合的な健康水準を表す指標として,乳児死亡率がある.乳児は社会の中で最も弱い存在と考えられ,医療や生活環境の劣悪さがその死亡として端的に表れるからである.1920(大正9)年のわが国の乳児死亡率は出生1,000につき165.7であった.図1-1の1935(昭和10)年以降のわが国の乳児死亡率の年次推移(緑色のグラフ)を見ると,第二次世界大戦後,急激に改善していることがわかる.ユニセフ(UNICEF:国際連合児童基金)の統計1)で,世界各国の2015(平成27)年の乳児死亡率を見ると,アンゴラが96,シエラレオネが87など,内戦などの問題を抱えていた国がきわだって高いが,それでも90年前の日本と同水準である.少なくとも乳児死亡率でみる限り,90年前の日本はまぎれもない途上国であった. 次に,図1-1で平均寿命(青のグラフ:男性,赤のグラフ:女性)を見てみよう.平均寿命(0歳時平均余命)は,その年の年齢別死亡率がこのままずっと続くとしたら,その年に生まれた乳児が平均して何歳まで生きるかを表したもので,その年のすべての年齢層の死亡率を反映した総合的な健康指標である.日本での終戦直後は男女とも50歳程度であったが,現在では,男性は80歳,女性は87歳を超えている.なぜこのように急激に改善したのであろうか. 第一には,平和な世の中が続き,経済が発展して,人びとの暮らしが豊かになって 1公衆衛生改善の歩み 1昔の日本はどんな国だったのか 2どうしてこんなによくなったのか乳児死亡率生後1年未満の子どもの死亡数をその年の出生数で割って,1,000をかけたもの.平均寿命2016(平成28)年現在の日本の平均寿命は,男性80.98歳,女性87.14歳.男女共に世界の最長寿国の一つになっている.図1-1_わが国の乳児死亡率と平均寿命の年次推移19354045505560657075808590952000051016010203040506070厚生労働省「人口動態統計」「2016(平成28)年簡易生命表」より8090100110120(年)(人)(歳)乳児死亡率(出生千対)1944~46年:戦災等により乳児死亡率のデータなし60.113.17.53.22.04045505560657075808590平均寿命62.9759.5774.6681.9084.6087.1480.9869.3175.9277.72男性平均寿命乳児死亡率女性平均寿命図1-1●わが国の乳児死亡率と平均寿命の年次推移14
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