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 疾病を予防し,健康を保つ努力は,有史以来行われていたが,近代の公衆衛生は,18世紀後半からの産業革命に伴って,英国に始まった.近代工業的手法による大量生産・大量消費は,新たに都市における大量の労働者階級を生み出し,この都市に集中した労働者の劣悪な労働・生活環境の改善への取り組みが公衆衛生の始まりとされている.1848年,この英国において公衆衛生法が公布された.また,公衆衛生を担当する国の機関として保健総局が設置され,公衆衛生行政の基礎が築かれた.その後,科学技術,とりわけ医学,生物学,物理学,化学などの進歩と相まって,公衆衛生は飛躍的に発展したのである. 3公衆衛生の歴史 1近代の公衆衛生項 目臨床診療公衆衛生対 象患者すべての生活者単 位個人集団,コミュニティ手 段診断,治療(一次~三次)予防目 標治ち癒ゆ,軽快社会的生活,自己実現アプローチ生物学的アプローチ社会的アプローチ専門家の関わり主導的(リーダー)支援的(パートナー)活動の場施設中心地域,学校,職域など学問上の基盤医学,看護学など左記に加えて,疫学,人文科学など診断のための道具医療面接,臨床検査保健統計,調査,訪問実践のための組織病院,診療所行政(国・自治体),住民組織,NPO,学校,企業など基 盤医療機器,施設法制度,多様な組織のネットワーク結果の見えやすさ見えやすい見えにくい表1-1●臨床診療と公衆衛生の比較一覧とを集団としてみることが多い.それも病気の人だけではなく,健康な人も含めてあらゆる人びとが対象となり,社会の中の人びとを健康面で組織的にサポートする.そのための重要な社会的基盤として法律や行政組織が存在し,さまざまな組織や職種が協力して仕事をしている.臨床診療と公衆衛生は,人びとの健康を実現するためのいわば車の両輪であり,それぞれに限界もあるが,どちらが欠けても人びとの健康は実現されないだろう.16

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