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 社会福祉という言葉を聞くと,自分とは無関係な問題であるが,世の中にはかわいそうな人がいるので何とかしてあげなければと,ついつい考えがちである.果たして,社会福祉はわれわれの生活と無関係なのであろうか.改めて,われわれの生活と社会福祉・社会保障との関わりを考えなおし,その社会福祉・社会保障が今日どのように発展してきているのかを明らかにしたい. 日本の国民の生活を考えてみると,その生活は今日では常になんらかの事故に遭遇する危険性をはらんでいるといわざるを得ない.地震による災害,交通事故に遭う危険,電車や飛行機での事故,労働に伴う事故,疾病や傷害を治してくれるべき医療上の事故など,日常生活で受けるかもしれない事故を考えたら,まさに「杞き憂ゆう」と笑えない状況が身近に存在している.しかも,人間がおぎゃーと生まれて,寿命を全うするまでの人生のライフコース(生涯生活)を考えた場合には,出生時の事故,高齢に伴う疾病にかかる率の増大など,日常生活を脅かす事態に遭遇する機会もある. 昔から,人間は日常生活を精いっぱい生き,事故に備えて頑張って蓄えたりしてきても,自分の力では防ぎようもない,あるいは個人では解決できようもない事故に遭い,人生設計を狂わされてきた人が多くいた.社会福祉・社会保障はそれらの生活上の事故に対する,個人の対応とは異なる「社会的な対応策」として,「社会の制度」として発展したものである.私たちの暮らしと社会福祉との関わりについて,今日では次の四つの視点から考えてほしい.(1)家族機能の変容と社会福祉 第一に,社会福祉は私たちの生活と関係ないどころか,私たちの身近なところにあり,社会構造の変化に伴い,家族・親類のみでは対応できない私たちのライフコースにおける多様な事故に対応し,生活を支えてくれる制度として歴史的に発展してきた. 赤ちゃんは一人で暮らしていくことができない.基本的には,その赤ちゃんを産んだ親が保護してくれなければ生きていけない.高齢者は,働く能力と働く機会がなくなれば,自分で蓄えてきた貯蓄に頼るか,自分の子どもに養ってもらうかしなければ生きていけない.また,年老いて,自ら食事を作ったり食べたりする力がなくなったり,身辺の自立ができなくなれば,子どもなど誰かに介護してもらわなければ生きていけない.あるいは,成人したものの,仕事中に事故に遭い,働く能力と働く機会がなくなれば,その人は親や兄弟の援助を受けなければ生きていけない. このように,赤ちゃんから高齢者になるまで,その人の生涯において,人間はなんらかの「他者の援助」がなければ生きていけないのが実際である.これらの他者の援助機能は,親や兄弟などの家族・親類が,相互に自然発生的に助け合って行ってきた.あるいは,生産手段を移動できない稲作農業のような産業構造の社会にあっては,生活圏域を同じくし,かつ同じ地域で,共同して生産を行う上でも必要であったために,地域における助け合いも豊かにあった.日本の場合,冠婚葬祭等での,「講こう」と呼 1はじめに 2生活上の事故と社会福祉・社会保障12

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