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あるいは資産家による慈善活動として行われることもあった. しかしながら,それらの活動を個人の恣し意い的な活動として行うのではなく,社会のセーフティネットとして,「社会の制度」として行うべきであるという考え方の下に,近代社会になるに従い,社会体制を維持していくために必要な政策として発展してきた.歴史的には,救貧制度としての公的扶助(生活保護制度)がその代表的制度であり,現在も社会保障制度の一翼を担っている.(3)ネットワーキング型ヨコ社会と福祉コミュニティの創造 第三の視点は,地域における支え合いのシステムとしての社会福祉である.近代社会の発展,工業化の進展に伴い,社会福祉制度は生活上なんらかの問題を抱えている人に対して,その個人と社会福祉の制度・サービスとを,いわば“点と点”を結ぶ形で援助しようとするシステムを整備・発展させてきた.入所型社会福祉施設はその代表といえるかもしれないが,全国各地に“コロニー”と呼ばれる大型入所施設を建設し,同じような障害を有していて,生活上問題を抱えている人びとをそれらの施設に集約的に入所させて,生活を援助してきた.しかしながら,それは必ずしもよいことではないのではないかという反省が起こり,障害を有し,生活上問題を抱えている人も,できるだけ地域で,一般住民と同じような生活リズムを持てるようにしようというノーマライゼーション(p.24,98参照)という考え方が出てきた. そのような背景もあって,2000年には,戦後社会福祉行政の基本を規定していた社会福祉事業法(1951年制定)が改正・改称され,社会福祉法が公布,施行された.そこでは,「福祉サービスを必要としている人びとの地域での自立生活を支えることが目的」(p.17表1―2,社会福祉法第3条および第4条参照)と明記され,そのような人びとを地域や社会から排除しないで,共に生きていこうという共生社会を創造するソーシャルインクルージョン(社会的包含)という考え方が標ひょう榜ぼうされた.そのためには,地域住民が有している社会福祉のイメージや,日本の社会が作り上げてきた人間観を変えていくことが必要となる.日本の20世紀は,富国強兵政策や高度経済成長政策に伴う「強さ」と「速さ」をよしとする人間観,「タテ社会」と呼ばれる社会システムであった.しかも,稲作農業社会の中で,日本の社会は「長いものには巻かれろ」,「寄らば大樹の陰」,「出る杭くいは打たれる」という処世観に基づく社会観,生活観,人間観を作り上げた.それは住民の主体性を育てるというより,「タテ社会」と呼ばれる社会システムの中で上意下達的な,組織に従順な,没個性的な人間を作り上げるために,「……をしなさい.……をしてはいけない」という子育てや教育をしてきた. しかしながら,21世紀はノーマライゼーションやソーシャルインクルージョンといった考え方に基づき,子どもと高齢者が交流し,共存できる社会づくり,「障害者」というレッテルを貼って人を評価するのではなく,かつまた,その人の身体的障害に着目するのではなく,その人が生活上どのような機能障害を有しているかに着目して(WHOが  2001  年にまとめたICFの視点),その生活機能障害を社会的になくすユニバーサルデザインを基にした社会づくり,在住外国人とも地域で共生できる社会づくりを行うことが必要となる.そこでは,弱さも認めた一人ひとりの個人の尊厳が守られ,個人の自立と連帯を前提とした「ネットワーキング型ヨコ社会」の創造が求められる国際生活機能分類WHOは2001年に,ICF(Inter- national Classification of Functioning,Disability and Health,国際生活機能分類)を採択した.これは1980年に国際疾病分類(ICD)の補助として発表したWHO国際障害分類(ICIDH)の改訂版である.ICFは,人間の生活機能を「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の三つの次元で示し,その否定的側面である「機能障害」「活動制限」「参加制約」の総称を「障害」としている.ICIDHが身体機能の障害による生活機能の障害(社会的不利)を分類するという考え方が中心であったのに対し,ICFはこれらに環境因子という観点を加え,例えば,バリアフリー等の環境を評価できるように構成されている.このような考え方は,障害者はもとより,全国民の保健・医療・福祉サービス,社会システムや技術のあり方の方向性を示唆しているものと考えられる.14

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