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なくなれば,その人は親や兄弟の援助を受けなければ生きていけない. このように,赤ちゃんから高齢者になるまで,その人の生涯において,人間はなんらかの「他者の援助」がなければ生きていけないのが実際である.これらの他者の援助機能は,親や兄弟などの家族・親類が,相互に自然発生的に助け合って行ってきた.あるいは,生産手段を移動できない稲作農業のような産業構造の社会にあっては,生活圏域を同じくし,かつ同じ地域で,共同して生産を行う上でも必要であったために,地域における助け合いも豊かにあった.日本の場合,冠婚葬祭等での,「講こう」と呼ばれる親類相互の助け合いや地域の助け合いが豊かにあったし,労働力が集中的に必要な場合等の相互扶助組織である「結ゆい」といった助け合い組織もあった. しかしながら,社会の中心的産業が,農業から生産手段,生産場所を自由に移動させられる工業に変わると,人口移動も激しくなり,生活圏域も遠距離通勤によって拡大していく中で,地域での助け合いや家族・親類による助け合いには限界が生じてきた.例えば,核家族で両親が働いている場合,子育ては大変深刻な問題となる.以前ならば,大家族の中で,あるいは地域に,親の保育機能を代替してくれる人がいた.しかしながら,故郷を離れ,都市に働きに出ていたり,通勤時間がかかり,労働時間を自分の思うように変えられないサラリーマン生活が主流の今日では,それも不可能となり,多様な保育サービスが社会的な制度として整備されなければ,核家族の共働き夫婦の生活は成り立たなくなっている. また,平均寿命が延びることに伴い,働く能力がなくなり,あったとしても働く機会がない高齢者も増えてきている.それら高齢者の生活保障の問題(年金制度など)や医療・介護問題(医療保険・介護保険制度)への対応も,子どもの数が減り,かつ子どもが近くに居住しているとは限らない状況の中では,子どもや親類だけでは対応できないほどに深刻化してきている. さらには,近代工業の発展に欠かせなかった石炭産業労働者にみられたように,工業化が進む中で労働災害に遭う機会が多くなり,結果としてそれに伴う障害者や死亡者の数も増えてきた(労働災害保険制度).また,病気をすることにより,働けなくなった人々の医療や医療費の負担(医療保険制度),あるいは疾病に伴って,働けなくなった間の所得を保障していくことも,工業化が進展する中で大きな問題になってきた. このように,自然発生的に有していた家族や地域の素朴な助け合い活動だけでは対応しきれない課題が社会的に増大していく中で,所得保障としての社会保険制度や介護,養育等の対人援助としての福祉サービスの提供という「社会の制度」として社会保障・社会福祉が歴史的に発展した.(2)社会のセーフティネットと社会福祉 第二に,社会保障・社会福祉は私たちの生活を保障するという立場よりも,どちらかといえば社会を維持し発展させていくという立場から,社会のセーフティネット(➡p.27参照)の制度,あるいは労働力確保や社会統合の制度として発展してきた側面もある. いつの時代にあっても,働く能力もなく身寄りもない人,あるいは親が死んで保護講,結講:民間の金融組織または相互扶助組合.掛け金を出し合って,一定期日にくじ・入札により順次に金を融通する組合.頼母子(たのもし)講,無尽(むじん)講など.結:農作業などで,互いに労力を提供して助け合うこと.151現代社会と社会保障・社会福祉

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