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主体性を育てるというより,「タテ社会」と呼ばれる社会システムの中で上意下達的な,組織に従順な,没個性的な人間をつくり上げるために,「……をしなさい」「……をしてはいけない」という子育てや教育をしてきた. しかしながら,21世紀はノーマライゼーションやソーシャルインクルージョンといった考え方に基づき,子どもと高齢者が交流し,共存できる社会づくり,「障害者」というレッテルを貼って人を評価するのではなく,かつまた,その人の身体的障害に着目するのではなく,その人が生活上どのような機能障害を有しているかに着目して(WHOが 2001 年にまとめたICFの視点),その生活機能障害を社会的になくすユニバーサルデザインを基にした社会づくり,在住外国人とも地域で共生できる社会づくりを行うことが必要となる.そこでは,弱さも認めた一人ひとりの個人の尊厳が守られ,個人の自立と連帯を前提とした「ネットワーキング型ヨコ社会」「地域共生社会」の創造が求められることになる. そのためには,日常生活の場である地域での,近隣住民で支え合える「福祉コミュニティーづくり」「ケアリングコミュニティーづくり」が重要であり,それを具現化できる社会福祉観と人間観を多くの住民が体得できるようにしていくことが必要となる. 地域自立生活支援には,行政が制度として提供する「制度的サービス」(フォーマルケア)だけでは十分でなく,どうしても近隣住民による見守り,声掛け,触れ合い,支え合いといったインフォーマルケアとしてのボランティア活動(互助)が欠かせない.このような地域づくりが,今,地域での子どもの安全を守る上からも,一人暮らし高齢者の孤独死をなくす上からも,地域の防犯・防災の上からも求められている.(4)地球規模でのヒューマンセキュリティーの構築 最後に,21世紀の世界においては,地球規模で物事を考えないと国民の生活の安定と社会保障・社会福祉の安定は保てないところにきている. 近代における社会保障・社会福祉制度の発展は,いわば「一国ソーシャルセキュリティー」(一国の国民のみを考えた社会保障制度)をどう構築するかということだった.しかしながら,経済が地球規模で行われ,日本の食料自給率が大幅に下がり,貿易によって日本の経済と生活が支えられている現状や,その経済を支えるための日本人の海外派遣や地球規模での人口移動,世界規模での金融活動,そして日本における在住外国人の増大等を考えると,鎖国でも考えない限り,一国ソーシャルセキュリティーを維持していくことは困難である. 一方,日本は憲法前文において,「全世界の国民が,ひとしく恐怖と欠乏から免れ,平和のうちに生存する権利を有することを確認し」とうたい,その達成のために努力することを世界に約束した.それだけに,全世界の国民がどうすれば恐怖と欠乏から免れられるか,また豊かな生活がどうすれば保障されるのか,政府レベルでも,国民レベルでも真剣に考えなければならない時期にきている.自らの生活の安定を考えれば考えるほど,持続可能な地球,国際社会を維持していくために,国際的貧困や児童虐待,公衆衛生などの問題にも目を向け,世界的規模でのヒューマンセキュリティー(人間安全保障)を構築していくに当たり,どういう役割を担えるかが問われている.国際生活機能分類WHOは2001年に,ICF(Inter- national Classification of Functioning,Disability and Health,国際生活機能分類)を採択した.これは1980年に国際疾病分類(ICD)の補助として発表したWHO国際障害分類(ICIDH)の改訂版である.ICFは,人間の生活機能を「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の三つの次元で示し,その否定的側面である「機能障害」「活動制限」「参加制約」の総称を「障害」としている.ICIDHが身体機能の障害による生活機能の障害(社会的不利)を分類するという考え方が中心であったのに対し,ICFはこれらに環境因子という観点を加え,例えば,バリアフリー等の環境を評価できるように構成されている.このような考え方は,障害者はもとより,全国民の保健・医療・福祉サービス,社会システムや技術のあり方の方向性を示唆しているものと考えられる.171現代社会と社会保障・社会福祉

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