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は生理学的な観察や細胞・細菌の顕微鏡観察など,いろいろな測定法の基礎を教わりました.中にはアルバイトで学習したこともあります.学習過程ではどの先生からも,「観察が不正確だと分析も検討も不正確になる」と教わり,特にウイルス学の動物実験のアルバイトでは,観察法を徹底して教育されました.観察ができない者にはアルバイトはさせないということでした. このような経験を通して,研究の基礎は個別例の状態を正確かつ客観的に観察してデータを得ることで,それがその後の研究過程を左右するのだと理解しました.そこで私は,初学者は個別例を正確かつ客観的に観察し,データを得ることができるような訓練をする必要がある,そのことは実践においても重要なこととして共通点があると考えるに至りました.このような経験や考えから,「研究」を学習する初学者は,まず事例研究に取り組むのがよいのではないかと考えています.もちろん学生の思考や経験には個人差があり,事例研究以外の研究法に取り組む学生もいることは当然です. ここで述べる私の体験的事例研究は,現在では疫学的な症例集積研究の初歩としたほうが正しいと考えます.私が大学を卒業した昭和30年代後半は,まだEBMの考え方はなく,看護学においても研究方法論が明確になってはいませんでした.そこで,大学で教えを受けた先生方から疫学の指導を受けながら,看護学研究について,個の問題を分析して証明する研究法について手探りで学んでいました. 疫学では,症例対照比較研究(case-control study)や症例集積研究(case series)という方法で,事例研究が取り上げられています.ここでいう「症例」とは,何かの病状・健康問題がある人,「対照」とはその病状や健康問題がない人を指し,この二つの群の間にどのような関係性があるかを疫学的に分析・検討するのが症例対照比較研究です.ある事象(例えば,治療法や薬の効果)に関係する,一定の条件を満たした症例を,多くの医療機関に呼びかけて一つの研究組織に集めて疫学的に分析・検討するのが症例集積研究です.新たな感染症などが発生した場合に,広い地域から症例を集めて感染拡大を予防し,対策を立てるために分析する,または,いまだ解明が進んでいない課題の多い症例を集めて,それらの課題を解き明かす道の第一歩を開くために分析するという目的で多く行われています. 私と事例研究との出会いは,ある患者の主治医と意見を交換しているときでした.私は,この患者は病気の経過が他の患者に比べてここが違うとか,対処法にはこういう考えもできるし,ああいう考えもできるのではと,自分が記載した経過図(p.17 図1-2)を見ながら意見を述べました.そのとき主治医は,「川村さん,あなたはそのような図を何枚くらい持ってるの? こうやって多くの個別例を客観化して検討し,その結果で標準の図を作ってるんですね.ふーん.それって立派な事例研究ですよ.臨床研究といってもいいけど」と評価してくださいました.さらに「医学・医療の研究は,心臓移植なども初めはたった一事例の研究から始まったのです.神経系難病患者さんの訪問看護はあなたが第一例をつくっているんだ.そういう見方でしっかり研究してくださいよ.その研究発表で訪問看護が広まっていくんですよ」と続けて 3事例研究との出会い131研究と実践活動

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