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近年の社会の変化は激しく,人々の健康問題も変化しています.特に,人口構成の高齢化と少子化,すなわち生産年齢人口の減少が著しい時代になり,国も高齢者の健康生活問題への対処や少子化対策にどのように取り組んでいくか,検討を進めています.高齢化の課題は,虚弱化したり,障がいをもったりした高齢者が,希望する生活や終末期の在り方を持続可能な条件においてどのように実現するかです.そのために,健康寿命を延ばし,在宅生活を長期的に維持する必要があり,支援法としては地域包括ケアの構築が示されています. 次いで,医療や生活の支援を受ける人々が増え,支える働き手や支援者が減少の一途をたどっているというバランスの悪さも深刻な課題です.これに対して,医療においては,チーム医療という方式を推進し,関係する職種がそれぞれの業務を拡大すること,また,各職種の周辺業務を他の職種と重なり合わせ,連携の輪が途切れないようにすることによって,切れ目のないサービスが効果的かつ効率的に提供できることを目標にしています. 日本の人口の高齢化は,他の国にはないスピードで進んでいます.ここに示された課題や目標,方法は日本独自で開発していかなければならない事柄です.私たちはこの事柄をニードに合わせて,早急に解決していかなければならないのです.その解決策の探索は,目の前の課題に対して適切と思われるサービスを実践し,これはよいと考えられたことを客観化し,分析し,成果を見極め,発表し,他のサービス提供者に示して共有することによって,解決策を確立していくという方法で行われます.まさに,この過程は研究的な過程です. 本書は,事例研究に焦点をしぼって編集しました.看護職者養成の基礎課程においては,看護研究力をいかに身に付けるかが大切です.また,基礎課程の最終段階では,一人ひとりが自身のこれまでの学習成果を再確認し,それらの成果を統合させる力を養い,研究過程やその成果を理解して,自身の力として実践に生かせることが必要です.看護職者として,今後の実践を蓄積し発展させていく力を養うために,少数の対象をじっくりと観察し,その結果をまとめる方法を学習できるという点で,事例研究はたいへん意義があるといえます. 現在は実践の根拠として,医療統計学の手法に則った研究成果が重要視されています.このことを否定はしませんが,一人ひとりの対象者に深く支援する看護実践としては,対象者の生活の質をきちんと理解し,働きかけられなくてはなりません.事例研究は,質的な研究法として,看護実践においては重要かつ不可欠はじめに
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