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12 「看護」は,人々の生活の営みの中で,自然に誰もが行っていることである.例えば乳幼児や高齢者あるいは病人への世話,また病気にかからないように用心し,体調の悪いときには養生するなどセルフケアも含まれる.人にはみな生まれながらに「看護」する力が備わっている.生活の中で行われている「看護」は,経験を通して蓄積され,受け継がれた知が基盤となっている.体を清潔にすること,食べ過ぎないこと,部屋を掃除すること,命を尊び人と良好な関係を保つことなど,家庭や地域社会でのしつけや行事の中で教えられてきた.近年は,それに加えてインターネットの普及で,健康情報サイトや科学論文などからも知識を得ることができる. 看護職とは,健康に関わる専門的な教育を受け,職業として看護を行う者である.看護職の役割は,誰もがもっている「看護」の力を信じて,それぞれが「看護」の力を発揮して,その人なりの健康で充実した生活が営めるように支援することである. しかし,人が重篤な状態になったときには,「看護」の力を自ら発揮していくことは難しい.そのときは,その人の代わりとして「看護」を補完し,重篤な状態から抜け出し,回復していけるように関わる.また,回復が望めず,近い将来に死が訪れることが予測される場合もあるだろう.そのときには,最期までその人がもっている「看護」の力を使い,苦しい状況の中でもその人が望む生活を送っていけるように,最期のさいごまで寄り添い続ける.本人に対してだけではなく,家族の中で互いを気遣い世話をする「看護」が行えるよう,新生児や乳児の世話のしかたを教え,高齢者の介護の方法を教える.また,かけがえのない人が重篤な状態になり,また死に直面したときには,家族が自らの「看護」の力で,その危機や喪失体験を乗り越えていけるように関わる. こうした人のもつ「看護」の力を支え,補完し,発揮できるように関わるためには,人間,人間を取り巻く環境,そして人間と環境との相互作用によって生み出される健康に対する深い理解が必要である.また,これらの知識をもとに,必要とされている支援を見極め,倫理的に効果的に,関係する人々と協力しあって実施する技術・支援をしくみにし,継続して提供していく技術が求められる. 日本の看護職には,保健師,助産師,看護師,准看護師の四つがある.これらの看護職は,日本国憲法第25条に定められた「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という国民の権利を保障するための社会制度の一つである.開発途上国の中には,専門的な教育や免許がなくても「看護師」と名乗り,医療行為を行える国もある.日本は,看護職を人々や社会の健康にとって重要な存在として位置付け,一定レベルの能力を有する者のみが,看護職として仕事ができるしくみをつくっている.教育の内容と方法,試験,免許交付,また看護職の業務を規定し,医師・歯科医師との業務の区別を行っている.1人々の生活と看護のかかわり1看護と看護職2日本の社会制度における看護職の位置付け

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