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 健康教育そのものは,日本ではすでに50年以上の歴史をもつが,その考え方も,疾病構造や時代の流れとともに,権威的な上から下への「指導型」の教育から,当事者の自己決定,自己管理重視の「学習援助型」の教育へとパラダイムシフトしてきた1)(図1-1). 米国スタンフォード大学のケイト・ローリッグ(Lorig, K.)博士は,患者教育・健康教育の考え方のモデルを,川で泳ぐ人と看護者の関係に例えて説明している.そのイメージをイラストにすると図1-2のようになる.三つのモデルのうち「医学モデル」と「公衆衛生モデル」は「指導型」の教育,「セルフマネジメントモデル」は「学習援助型」の教育に置き換えることができる.一般的に,生活習慣病予備軍の人たちや糖尿病などの慢性病の人を行動変容に導くためには,医学モデルや公衆衛生モデルよりも,セルフマネジメントモデルを用いたアプローチが有効だといわれている.(1)医学モデル 「医学モデル」は,川でおぼれている人を,相手の意思に関係なく,救助者が助け上げるスタイルであり,同時に,救助しやすいようにおぼれている人にも声を掛けて協力を求める.ここでは,相手がどのような力をもっているかに関係なく,「あなたは患者だからこうすべき」と患者役割を押しつけ,一方的に援助する傾向にある.このモデルでは,医療者に力があることが前提となる.(2)公衆衛生モデル 「公衆衛生モデル」は,人が危険な川に入っておぼれないよう,柵を設けるとともに,近づいてきた人々に危険な川であることを周知し,危険から回避させるスタイルである.ここでは,「○○してください」「○○してはいけません」など,リスクファクターを伝え,取り除くアプローチが主になるが,対象者にとって,指示された行動をそ 3「指導型」の教育から「学習援助型」の教育へパラダイムシフトパラダイムとは,規範,範例などを意味し,「ものの見方」や「考え方の枠組み」を表現する言葉として使用されている.パラダイムシフトとは,この見方や枠組みの転換や価値観の移行を表す.図1-1●健康教育のパラダイムシフト安酸史子.糖尿病患者のセルフマネジメント教育:エンパワメントと自己効力.改訂2版,メディカ出版,2010,p.11.指導型教育者の態度権威的,家父長的抑圧的論争型,勝ち負けをつける(おおむね教える側が勝つ)教育者が「教えたいこと」が目標となる.対等,兄弟姉妹的開放的対話型,啓発し合う学習者自らが目標を見いだしていく.討議の特徴学ぶ環境教育目標学習援助型151セルフマネジメントとは

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